歯科衛生士のよみもの

kindle unlimitedで本を読み漁り、感じたことを考察していくブログです。

特殊対応という仕事

今回は、「一流家電メーカー「特殊対応」社員の告白」(2017年)を読みました。

 

 

著者さんは本書の中で何度も「誰かがやらなければならないという使命感でこの仕事をしていた」と書かれていますが、世の中にはこんな仕事もあるのかと驚く内容でした。過去記事「謝罪ができない人」どころではないです。いや、本では本当のことは書けなかっただけなのかもしれませんが…。

 

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本書を読んで、すごいなと思ったものをまとめたいと思います。

 

 

や○ざ対応

 

やっぱり一番読んでいて怖かったのは、修理の依頼を受け訪問したら、日本刀を突きつけられて「今すぐここで修理しろ」と脅された場面です(カスタマーサービスで訪問修理は本来行いません)。しかも、修理しろと言われたPCは盗難品で、保険会社の顧客データが入っており、セキュリティーシステムが稼働してロックがかかっているものでした。結局、警察が踏み込み無事PCは回収できたということなのですが、大企業には脅迫、強請、たかりもままあり、その対応として警察OBが在籍しているのだということでした。



確かに、誰かがやらなければならない仕事ですが…命がいくつあっても足りない気がします。著者さんはこのほかにも、脅迫されて引っ越しを余儀なくされたり、山小屋に連れていかれ大型犬に睨まれながらファイルの復元作業をさせられたり、見てはいけないファイルを開いてしまい生かすか殺すかの相談が目の前で行われたり、土下座にいたっては数えきれないほどされたそうです。

 

 

権力者対応

 

権力や影響力のある人は礼儀正しい人も多いのだそうですが、「データが消えたらコンクリで固めて大阪湾に沈めるぞ」と脅された話しも強烈でした。著者さんの経験上、大きなお金の動くところには怪しげな人たちが集まりやすいそうです。

「要求どおりに対応し、ファイルを救出せよ」という本社役員からの依頼で、物理的に壊れたハードディスクからデータを取り出すというミッションに挑みます。夜8時から翌日昼前までかけて、数百回に1回程度ファイルが表示されるという奇跡に望みをかけて作業し、どうにかデータを取り出すことに成功します。

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もしできなかったら、2人のうち1人が何とか逃げ出して警察に駆け込もうと相談していたというのですから、どれだけ恐ろしい状況だったのか想像できますね。

 

 

愛人対応

 

役員を通じた特殊対応というのは、過去記事「自分のキャラを生きる」のセカンドドアのようなもので、時には関係者の愛人からの依頼も来ます。

 

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技術的に絶対に不可能な案件であっても、「依頼者が納得するまで謝ってこい、とにかく円満に解決しろ」と言われ、訪問することになります。そして、精一杯やってみたけどダメでしたというパフォーマンスをするのですが依頼者はブチ切れ。リストカットした自分の腕を見せながら「なんとかしろー!」と叫びます。

結局、HDに保存していた「チャングムの誓い」が見れなくなったという件だったため、DVD全巻セットを購入する(役員承諾済)ことで依頼者は落ち着きを取り戻すのですが、…いや、愛人にDVD・BOXくらい買ってやれよ…特殊対応に回すことかよ…自分が対応できない女性を愛人にするなよ…と思いますよね。

 

 

首相対応

 

特殊対応では、海外の要人が国内に滞在している時に起きたPCのトラブルでも呼ばれることがあります。

ホテルに到着するとボディーチェックを受け、携帯電話もPCバッテリーも取り上げられてスイートルームに通されます。問題のPCを見てみると、ウイルスやスパイウェアに感染したような動きを見せます。首相のPCがウイルスに脆弱な訳がないと思いながらPCを分解し、メインメモリに搭載された大きさ2㎝もない半導体のチップのロゴの一部に違和感を見つけ調べてみると、チップの1つがスパイウェアを仕込んだものに入れ替えられていたそうです。

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通信内容を調べてみると、3つの国を通して、ある国のサーバーに向けてファイルが送信されていたということでした。

 

著者さんも書かれていましたが「映画みたい」ですよね。ある国ってやっぱりあの国かな~。他にも特殊対応で対応した案件では、ハードディスクごと入れ替えて情報を盗まれたり、パソコン内部に盗聴器が仕掛けられていたこともあったそうです。また、レストランで使われていたPCがゴ○ちゃんの住処になっていてスタッフルームが阿鼻叫喚の地獄絵図になったこともあったとか。パソコンの中でも色々とあるんですね。

 

 

まとめ

 

赤の他人が読む分には非現実的すぎて面白い内容なのですが、著者さんの前任者は退職後自ら命を絶ったのだそうで、本書に出てくる後輩も「仮病で休んでいいですか?」と言ったり、職場のゴミ箱を蹴ってゴミをばら撒いたりと精神的にかなり不安定になっている様子が書かれています。

私たちはエピクテトスのように奴隷ではないので、自分で自分の生きる道は選ぶことができます。

 

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著者さんも、仕事とは誰のためのものなのか、なんのためのものなのかと、かなり悩んだようですが、この経験にも意味があった、学ぶことが沢山あったと考えることもできるのではないかと思います。また、このように本にしてくれたおかげで、全く知らなかった世界を学ぶことができて、ありがとうございますとお伝えしたいです。

過去記事「ザ・資本主義」でもあったように、お金を持つと人は偉いと勘違いしがちで、欲深くなるために、このような仕事が生まれてしまうのだろうなと考えながら読みました。

 

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