歯科衛生士のよみもの

kindle unlimitedで本を読み漁り、感じたことを考察していくブログです。

無意識思考は存在しない

今回は、心はこうして創られる 「即興する脳」の心理学(2022年)を読んで、後頭部を殴られたような衝撃を受けたのでご紹介します。

 

 

私は、過去記事無意識思考を読んで、無意識下で脳は考え続けているというのを信じていたのですが、それは錯覚だと一刀両断、完膚なきまでに叩きのめされてしまいました。

 

ddh-book.hatenablog.com

 

 

脳のでっちあげ力

 

本書では第一部で小説のイメージや錯視といった心理学の様々な実験を紹介しながら、脳がいかに不確定要素を補いながら物事をでっちあげているのかを説明していきます。

そして、触覚であろうと視覚であろうと、知覚は本質的に一歩ずつなされることを証明します。例えば、文章を読むとき、目線は単語を一つか二つずつ飛ぶように動きます。目はひと欠片ひと欠片、情報を拾い集めているのに、そのことはほぼまったく自覚されません。

 

すーっと滑らかに読んでいると感じるのは、脳によるでっちあげによるものです。

 

過去記事自由エネルギー原理でも、そういえば「人間の脳は、予測誤差が最小化されるように想定を書き換えることで外環境に何があるのかを理解している」という考え方があるのを学んでいました。

 

ddh-book.hatenablog.com

 

 

 

空間無視

 

脳梗塞後遺症などで見られる「空間無視」というのをご存知でしょうか。

左側の空間無視であれば、脳の損傷(一般的には右半球)により、視力の問題とは別に左側の空間の認識が出来なくなるため、左側の食事を残す、左側の壁にぶつかるなどの症状が出ます。これは、視野中の左側に注意を向けることができないからなのですが、本人はこの注意の向かない部分をわざわざ「欠けていると感じる」ことはありません

 

また、右脳と左脳をつなぐ脳梁を切り離した患者の実験では、左半球の「解釈者」は、右半球のなした選択を説明するためのストーリーを(あまりに自然に流暢に)でっち上げることもわかっています。

 

 

クレショフ効果

 

ロシアの映画監督レフ・クレショフは、無声映画スターの無表情を映した全く同じカットに3種類の映像を挿入しました。すると、棺桶の映像では「悲しみ」、食事の映像では「空腹」、女性の映像では「好色」というように、観客はそれぞれ全く違う表情の解釈を想起しました。これは、私たちは顔だけを「見て」表情を理解しているのではなく、周りの文脈に影響されることを示しています。

 

脳は知覚入力の欠片の一つひとつ(顔、モノ、記号、その他なんでも)を解釈する時、それが最大限に意味を成すよう、広い文脈に照らして解釈しています。

 

 

コンピュータとニューロン

 

コンピュータと人間の脳の違いを考えていくと、下図のようになります。

コンピュータには0,1しかなく、一台のパソコンで一つかせいぜい数個の計算しかできません。しかし、そのスピードたるや1秒間に数十億回の演算をする性能を持っています。

 

一方、ニューロンの「発火」神経細胞が刺激に応答して活動電位を発生させること)は、最速でも一秒に約1,000回のパルス、大抵は1秒間に5回から50回ほどというかなり遅い速度なのだそうです。しかし、ニューロンは一つの脳におよそ千億個あり、およそ百兆ヵ所で互いに結合して関連するニューロンネットワークを一気に使って処理します。そのため、膨大な知覚データを過去の記憶に照らし合わせて足りない部分は補完し、解釈することができます。

また、脳は一度に一つの問題についてしか協働できませんが、ネットワークが重ならない場合は、歩きながら話をするといったように同時処理することもでき、処理を瞬間瞬間で切り替えることで、まるで同時処理しているように錯覚させることもできます。

 

 

無意識思考は存在しない

 

つまり、脳がバックグラウンドで考えているというのはただの幻想であり、実際にはその瞬間瞬間で脳の膨大なネットワークで処理した結果であるということです。処理するたびにその記憶も蓄積されるため、考えれば考えるほどひらめきも起こりやすくなります。

 

くどいですが、脳が注意を向け、意味をとろうとすることができるのは、一度にひと組の情報のみです。アハ体験」のようにある瞬間、脳はパッと答えを見つけますが、その過程は自覚できません。神託がおりてきたとすら感じる(でっちあげる)かもしれません。

 

さらに、「無意識思考が存在する」と裏付けできる証拠も見当たりません。寝ている時の脳活動は起きている時とは全く異なりますし、他のことを考えている時はネットワークが干渉してしまう為、ゴリラの着ぐるみを着た人物が目の前を通っても見えません。何かを考えながら、裏で他の何かを考えるなんて、人間の脳には不可能なのです。

 

 

まとめ

 

無意識思考を信じている方には、本書を一度で読んでもらいたいです。私のように衝撃を受けるのか、それとも、やはり無意識思考は存在すると確信するのでしょうか。

私は、本書を読んで、お釈迦さまの言う「今ここ」しか存在しないというのが思い浮かびました。脳は、知覚(過去記事「プラネタリーヘルス」によると腸内細菌からの知覚も含む)と過去の記憶を「今ここ」の一瞬一瞬で判断し、膨大なネットワークを使って解釈しているのであって、まるで過去も未来もあるように感じているのは錯覚だということです。

 

ddh-book.hatenablog.com

 

無意識思考はなくても、同じことを考え続けて答えが出ない時は少し休むのも大事だというのは間違いないことなので、上手に脳を使っていきたいなと思いました。