歯科衛生士のよみもの

kindle unlimitedで本を読み漁り、感じたことを考察していくブログです。

鬼の歴史

今回は、鬼と異形の民俗学 漂泊する異類異形の正体(2021年)を読みました。

 

 

本書は、読者が読みやすいように「鬼滅の刃」を意識して書かれている一方、歴史書に鬼というものがどのように出てきているのかがまとめてあり、面白かったです。

 

 

各時代の鬼

 

奈良時代日本書紀風土記にも「鬼」は出てきますが、容貌などの細かい記載はなく、災いをもたらす正体不明の怪物や邪神、あるいは王権に服従しない異民族・異邦人のことをひろく「鬼」と捉えていたようです。出雲風土記には一つ目の鬼が人を喰ったという記述が出てきますし、続日本紀に出てくる小角は呪術を用いて鬼人を使役したと書かれているそうです。

 

平安時代前期に書かれた伊勢物語では、「都に近くても、人の気配のない荒れた古家には「鬼」という人を喰う化け物が潜んでいる」という物語(フィクション)が描かれています。日本三代実録では、実際の事件として鬼が出没し美女を喰い殺したという記述もありますが、これは伝聞だそうです。平安時代後期成立の逸話集今昔物語集には、宮中の琵琶の名器「玄象」を鬼が盗み、羅城門で奏でているところを博雅に「玄象」の音色がすると言われあっさり返したという話があり、この後から音楽や詩歌に秀でた鬼も出てくるようになります。

平安時代後期今昔物語集藤原氏の栄華を中心に叙述する大鏡では、百鬼夜行(異形の怪物としての鬼が行列を成して歩き、徘徊する)が出てきます。そして、「一つ目の鬼もいれば、角の生えた鬼、手が何本もある鬼、一本足で跳んでいる鬼もいる」と鬼たちの姿が具体的に描写されています。

 

鎌倉時代中期の逸話集『十訓抄』には朱雀門にすむ鬼がその楽才に感嘆して笛の名器を博雅に与えたという話や、漢詩人の都良香が羅城門を通りかかった時、楼上の鬼から典雅な詩句を授かったという話も載っています。平家物語には渡辺綱が深夜の一条戻橋に出現した鬼女に襲われるが、逆にその腕を頼光から与えらえた名剣・髭切(その後、黒丸と呼ばれる)で切り落としたという武勇譚もあります。

 

南北朝時代に成立したと言われているのが酒呑童子伝説です。大江山を根城とした酒呑童子という名の酒好きの鬼の首領が、武将の源頼光と彼に仕える四天王によって退治されるという話です。金太郎が坂田金時になって活躍する話ですね!

 

室町時代になると、頭に角を生やし、口に牙をもった容貌魁偉な怪物だけが「鬼」と呼ばれ始めます。その後、『桃太郎』室町時代末期までには口承の昔話として元型が成立しているそうです。



 

平安時代鬼と対決していたのは安倍晴明を筆頭とする陰陽師です。私も陰陽師が大好きで、野村萬斎さん主役の「陰陽師」はとても印象に残っています。また見たい!

 

 

陰陽師というのは、陰陽寮という朝廷の役所に所属した歴占術師だったのですが、のちには陰陽系の占術・呪術を行う宗教的職能者のことを広く陰陽師と呼ぶようになったのだそうです。

今昔物語集には、安倍晴明がまだ若いころ、百鬼夜行に遭遇し、師の加茂忠行が呪術で自分と共者の姿を消して無事に通り抜けたという話が載っています。実際の仕事としては、疫病が流行したり天皇が重い病気にかかった時、宮城の四隅や山城国境の4か所を祭場として「鬼気祭」を行っていました。「反閇(へんぱい)」陰陽師が使った邪気を払う特殊な呪的歩行法で、泰山府君祭(たいざんふくんさい)」は晴明が創案した病気平癒や延命成就を祈る呪的祭祀です。そして、これらの呪術を行う際式神と呼ばれる神霊を使役したと伝えられています。

 

 

花祭りの鬼

 

本書には、鬼にまつわる祭りなども紹介されていますが、愛知県の奥三河で行われる「花祭りが興味深かったので、ご紹介します。

 

①神迎え:土間に竈を築いて釜をのせ、舞庭とする。町村内の滝から採った水を釜でわかし、神々を舞庭に迎える。

②舞始め:注連縄がはられた舞庭を祭事によって清め、舞の始めとする。

③舞:三、四人が一組になって鈴や扇などを手にして舞いつづける。

④鬼:角の生えた鬼の面をかぶった者がつぎつぎに現れて乱舞する。「山見鬼」は鉞(まさかり)を振り上げて舞い、「榊鬼」は大地を踏み固める反閇(先述の陰陽師が使っていた呪的歩行)を行い、「朝鬼」は槌をもって釜に足をかけ、槌を釜に振りかざして「山割り(HPで検索すると、天井から吊るされた蜂の巣を落としていた)」をする。祭のクライマックス。

⑤湯囃子:藁を束ねたタワシを持って舞い、最後は釜の中の湯を観衆に振りかける。この湯を浴びると一年を無病息災で過ごせる。

⑥神送り:勧請した神々を送り返す神事を行い、祭場に静けさが戻る。

 

この花祭りに出てくる鬼は、祝福と恩龍をもたらしてくれる祖霊のような存在です。山見鬼が悪魔を倒し、榊鬼は大地に活力を吹き込み、朝鬼は山割によって宝物を取り出して村人に与えているのだそうです。

 

過去記事「将来の日本」「将来の日本_2」で学んだように、少子化であっても、このような伝統的なお祭りは伝えていってほしいですね。

 

ddh-book.hatenablog.com

 

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まとめ
 
私は歴史が本当に苦手なのですが、鬼の視点で歴史をさかのぼるのはとても面白かったです。日本史のテストでは『古今和歌集』とか『平家物語』を誰がいつ書いたかなんて、ホントどうでもいいじゃん!と思っていましたが(笑)鬼とからめると少しは答えられそうです。今回、まとめてみたことで、より頭に入った気がします。