今回読んだ本は、「無(最高の状態)」(2021年)です。
脳科学大好きの私としては、好みのジャンルの本でした。今回は、脳科学的な「無我の境地」についてまとめてみたいと思います。
私たちの脳は1秒とかからず「物語(虚構のストーリー)」を生み出してしまうのだそうです。たとえば、「玄関のドアノブに手をかけた瞬間」、脳の高次領域が「扉の向こうにはいつもの庭がある」という物語を作り、網膜から入った現実のデータと視床エリアで照らし合わせます。この物語は自動的に現れるため、制御することはできません。
現実よりも物語の方がが優先してしまう為、自分の考え方こそが〝唯一の現実〟だと信じ、それ以外の可能性を認めないということが起きるそうです。
これは、「確証バイアス」のことだなと思いました。さらに「エコーチェンバー」で自分と似た意見や思想を持った人々が集まり、さらに現実が見えなくなりますね。
「BRAIN DRIVEN パフォーマンスが高まる脳の状態とは」(2020年)でデフォルトモード・ネットワーク(DMN)について学びましたが、DMNが人間の苦しみの原因であるあることが分かってきているそうです。
DMNは何もしていないときに活動を始める神経回路で、内側前頭前野や前部帯状皮質といった幅広いエリアから構成され、無意識下で情報をまとめて新たな発想を生みます。さらに、将来のことを考える、過去を振り返る、誰かとコミュニケーションをするといった、自分に関する情報を処理する場面でDMNの活動が激しくなり、「この人に嫌われていないか……」や「あの失敗はまずかった……」などと自分にまつわるネガティブな物語を生み出すのだそうです。鬱病の患者はDMNの活動量が大きいという研究結果もあり、「ミー・センター(Me center)」と呼ぶ専門家もいるのだそうです。
ミー・センターの活動を抑えて今に集中するには、やはり瞑想(内面の観察)が良い手段となる訳ですが、瞑想には副作用もあるのだということは、始めて知りました。
ワシントン大学の実験では、15分間の瞑想を行った被験者は、普通に休憩を取ったグループよりも作業へのモチベーションが約10%低下したのだそうです。定期的に瞑想を行う者の約4分の1が、パニック発作、鬱病、解離感などの副作用を報告したという研究や、慈善団体へのボランティアなどに参加する意志が大きく低下したり、ナルシズムが増強してしまうという研究もあるそうです。
瞑想を効果的かつ安全に行うためには、最初のうちは強度の低い手法から行うこと、日常生活の一部に取り入れてしまうこと、ネガティブな感情が現れるときには一度中止して他の方法を試すなどした方が良さそうです。
1.自己、思考、感情のいっさいは、どこからともなく現れる
2.自己、思考、感情のいっさいは、放置すればやがて消えていく
という認識がわかるようになると、ミー・センターと扁桃体の結びつきが弱まり、脳が生み出す物語に巻き込まれにくくなるそうです。
さらに、自己を構成してきた人生のあらゆる要素が、まるで最初から自分とは無関係だったかのような感覚になり、それがポジティブなものかネガティブなものかを問わず、これまでの人生で自分を形作ってきた記憶や概念の虚構性に脳が気づくのだそうです。もはや「わたし」を規定する必要がなくなるということです。
一方、無我にいたった後も相変わらず自己は現れ続けます。もともと自己は生存ツールとして生まれた存在なので、その発生そのものは止めようがないのだそうです。しかし、世界を「自己とそれ以外」に切り分ける必要がないため、限りない受容力が生まれるということでした。
そして、幸福感、意思決定力、創造性、ヒューマニズム(栄養・安心・娯楽など、自分が欲するものを他の人にも与える態度)が上昇し、本当の自由を謳歌します。
理屈は分かるのですが、ジル・ボルト・テイラー博士が体験したような右脳の世界、自分が世界と一体化する体験はしたことがないです。
私も是非とも無我の境地を体験してみたいので、瞑想を毎日のスケジュールに入れたり、禅の修行のように無心になって掃除したり(「人生を好転させる掃除道」(2023年)参照)、できることを続けていこうと思います。