歯科衛生士のよみもの

kindle unlimitedで本を読み漁り、感じたことを考察していくブログです。

分人という考え方

今回は、私とは何か 「個人」から「分人」へ(2012年)を読んで、分人という考え方が面白いなと思ったので、まとめたいと思います。

本書は、『ドーン』という近未来長篇小説を読んだ読者さんからの要望で生まれたということでした。つまり、本書を書いたのは小説家さんということになります。 『ドーン』を是非読んでみたいと思ったけど、KindleUnlimitedには無かったです。

 

 

分人

 

本書では、分人を様々なシチュエーションを提示しながら説明していきます。例えば、高校の友人と話す時と大学の友人と話す時の自分って、同じだけどちょっと違いますよね。心理学者ユングは人間の外的側面を「ペルソナ」と呼びましたが、本書では仮面ではなく、本当の自分が分かれていると考えます。つまり、重みづけはあるにせよ、どの自分も「ありのままの自分」なのではないかということです。

そこで、著者さんの造語である「分けられる」という意味の「分人」(dividual)という言葉を用います。

 

 

 

この分人という考え方は、一神教とはなかなか相入れません。「誰も、二人の主人に仕えることは出来ない」というのがイエスの教えだったため、人間には幾つもの顔があってはいけません。常にただ一つの「本当の自分」で、一なる神を信仰していなければならないということになります。

そして、選挙の投票(一人一票)、学校の出席番号など、私たちの生活には、一なる「個人」として扱われる局面が存在しています。そのため、私たちは日常生きている複数の人格とは別に、どこかに中心となる「自我」が存在しているかのように考えようとしてしまいます

 

 

分人化のプロセス

 

分人は、特定の誰かとの反復的なコミュニケーションによって形成されます。

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最初の段階の分人は、 社会的な分人、つまり「不特定多数の人とコミュニケーション可能な、汎用性の高い分人」です。マンションのエレベーターで見知らぬ住人に会釈したり、コンビニの店員とのやりとりなどがこれに当たります。私たちは物心つく前から、既に環境に適合した分人を生きています。 この社会的な分人には地域差もあるということでした。

 

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第二段階の分人は、特定のグループ(カテゴリー)に向けた分人です。一般的に人間関係は組織や集団を介して広がっていくものであり、学校や会社、サークルといったグループ向けの分人が求められます。これは、なんとなくわかります。

 

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そして、最終的に生まれるのが、「特定の相手に向けた分人」です。何度となくやりとりを交わしているうちに、お互いの思考のクセやテンポもわかってきて、より具体化した分人が生じて、より深いコミュニケーションがとれるようになります。逆に、何度会っても、必要最小限の話しかせず、その先の関係にはお互いに足を踏み入れられない(踏み入れる気もない)人の場合は、分人化は失敗するということです。

 

 

分人主義の利点

 

親しい人が自分以外の人とまったく別の顔で接しているのを知ると、裏切られたような気持ちになることがあります。しかし、分人主義の考え方では、私たちに知りうるのは、相手の自分向けの分人だけということになりますし、環境が変われば、当然、分人の構成比率も変化することが納得できます。

私たちは、自分という人間を、複数の分人の同時進行のプロジェクトのように考えるべきだということでした。そして、様々な分人を入れ替わり立ち替わり生きながら考えごとをしているはずであり、無色透明な「本当の自分」という存在を捏造する必要はありません。

 

 

まとめ

 

日常生活の中で、複数の分人を生きているからこそ、精神のバランスを保っているというのは、まさに過去記事「トラウマの乗り越え方」の「私」と「わたし」のことだと思いました。

 

ddh-book.hatenablog.com

 

まだ何かを掴めたという訳ではありませんが、この「分人」という考え方は、人間関係の悩みや苦しみを救ってくれそうな気がします。ちょっと書き残して、温めておきたい考え方だなと思いました。