今回は「ルポ 誰が国語力を殺すのか」(2022年)を読んで、子どもたちの国語力に衝撃を受けたのでご紹介します。
本書で紹介されている「ごんぎつね」の授業での小学生の発言も衝撃的だったのですが、以下の高校生の会話に強く衝撃を受けました。
A君:「なあ、この間のアレってどういうつもり?」
B君:「は? どういうつもりって何?」
A君:「ウザっ、とぼけんなよ。こっちが訊いてることに答えろよ」
B君:「意味不明。ウザはお前だろ」
A君:「クソウザ、死ね」
B君:「ざけんじゃねえよ!」
この後殴り合いに発展したのだそうです。
高校生ですよ??相手に分かるように説明出来ていないし、語彙力が少なすぎてお互いに意味が分からずにヒートアップしてしまっています。
また、高校のITリテラシー教育でも以下のようなLINEのやり取りに関する記述があるのだそうです。
【この後、Kさんは傷ついてしまいました。なぜでしょう。】
思わず小学生の息子にこの話をすると、“「なんで来る?」は普通、交通手段を聞いているでしょ。お前は遊びに来ないでという意味ではないよね。”と何とか理解していました。ホッ。
再度言いますが、高校生ですよ??
著者さんは、教員や文部科学省の職員など様々な人にインタビューを行い、「家庭環境の格差」と「ゆとり教育」によって子ども達の国語力が低下したという意見で一致すると書かれています。
奇しくも私の本ブログの初投稿は「「教科書が読めない子どもたち」に関する内容でした。1年が経過して、再度子どもとの接し方について考えさせられます…。
本書はルポなので、不登校やゲーム依存、非行といった問題を抱える人やそれを支援する人を取材し、詳細に書かれています。そして、これらの人々に共通するのが、「言葉を失っている」という点だということです。
なぜ学校にいけないのか説明できない、自分の苦しみを言葉にして伝えられない、自分の感情に気付けない、言葉を使って考えることをしない(言いなりになる)、相手の気持ちを推し量ることができないと言います。
過去記事「ジョージ・オーウェル「1984」」では、人々をマインドコントロールするため情報規制、歴史記録の改竄の他に、「言語の破壊」が行われていました。
「女王の教室」の名セリフも思い出します。
いい加減、目覚めなさい。
日本という国は、そういう特権階級の人たちが楽しく幸せに暮らせるように、あなたたち凡人が安い給料で働き、高い税金を払うことで成り立っているんです。
そういう特権階級の人たちが、あなたたちに何を望んでるか知ってる?
今のままずーっと愚かでいてくれればいいの。
世の中の仕組みや不公平なんかに気づかず、テレビや漫画でもぼーっと見て何も考えず、会社に入ったら上司の言うことをおとなしく聞いて、
戦争が始まったら、真っ先に危険なところへ行って戦ってくればいいの。
本書でも、藤原正彦の「祖国とは国語」の以下の部分が引用されています。
国語力の低下は、知的活動能力の低下、論理的思考力の低下、情緒の低下、祖国愛の低下を同時に引き起こしている。(中略)不況が何十年続こうと国は滅びないが、この四つの低下は確実に国を滅ぼす。国語力の低下が国を滅ぼすのである。
このブログでも度々自分で考える力が大事だと学んできましたが、「言葉」がなければ考えることもできないし、「言葉」のバリエーションがなければ心の機微を感じ分けることも出来ないのだと気づかされました。そして、語彙を増やし、自由に自分の言葉を言うことができる環境(心理的安全性)、コミュニケーションの土台として、やっぱり家庭の役割が大きいのだなということが分かりました。
そして、本書では先進的な国語教育を行っている学校についても取材されています。特に印象に残ったのが「哲学対話」という授業で、専門の教師(元哲学研究者)が隔週で「生きるとは何か」「なぜ差別は生まれるのか」といったテーマで対話形式の授業を行うものです。
これ、対象は中学生なんです!
うちの息子たちも来年は中学生なのですが、公立の中学校に元哲学研究者なんていないので、私が頑張るしかないかなぁ。上手く出来なくても、投げかけること、考えるきっかけを作ることはできるかもしれませんよね。
私も歯科衛生士の学外実習から戻ってきた学生さんに「一番印象に残っていることは?」といつも聞くのですが、「特にない」と答える子がいて唖然とします。一方、印象に残った体験と一緒に、そこから学んだ教訓や実習に行く前と後の自分の成長を比較して自分の言葉で説明できる子もいます。こういうのも家庭でどれだけ言葉を使ったコミュニケーションが出来ていたかどうかなんだろうなと思いました。
学校の先生の共通意見として、スクールカーストならぬ「国語力カースト」ができるのだそうです。中学校で息子達が自分達で考え、成長できる仲間と付き合えるよう、母は今から人肌脱ごうと決心しました。