歯科衛生士のよみもの

kindle unlimitedで本を読み漁り、感じたことを考察していくブログです。

未顧客のナラティブを知れ

今回は、久しぶりのビジネス書です。

”未”顧客理解 なぜ、「買ってくれる人=顧客」しか見ないのか?(2022年)を読みました。

 

 

本書では、「未顧客」を全く買わないノンユーザーもしくはたまにしか買わないライトユーザーと定義し、なぜ「未顧客」を理解する必要があるのか、そして未顧客にどのようにして買ってもらうかを説明しています。

 

 

ロイヤルティを高めるという罠

 

企業ではよく購入者に調査をして、顧客のロイヤルティ、つまり長期的に信頼や愛着を持ってくれている「状態」を高めようとします。

確かにジェイ・エイブラハムの「ハイパワーマーケティングでも既存顧客の単価を増やしたり、再購入を増やす方策について書かれていましたし、既存顧客のロイヤルティが高まれば、新規顧客を紹介してくれそうな気がします。

 

ddh-book.hatenablog.com

 

しかし、本書ではダブルジョパディの法則というものかあり、「シェアが低いブランドは購買客数も少なくロイヤルティも低い」だけでなく、「どのブランドの顧客かにかかわらずカテゴリーの平均購買頻度は等しい」という事実が証明されていることを数式や具体例を交えながら説明します。

 

つまり、ロイヤルティを高めれば顧客が増えるという罠にはまってしまっている可能性があるということです。ヘビーユーザーだったのに、ある時ノンユーザーになったというのは私も経験がありますし、ヘビーユーザーにも限界がありますよね。

 

 

未顧客のナラティブ

 

ではどうすればブランドを成長させることができるのかと言うと、未顧客に顧客になってもらう、つまり、新規顧客や再顧客になってもらうことが重要です。

 

未顧客には合理的に「買わなかった」理由が存在します。そして、マーケターの合理と顧客の合理は往々にして合致しません。未顧客には未顧客ののストーリーが存在しており、それを知ることでどうすれば未顧客が「合理的に買う」のかが見えてきます。

ナラティブとは フランス語が語源であり、直訳すると「物語」「言説」「語り」という意味です。未顧客のナラティブを知り、なぜ買わなかったのかという語りの中から未顧客の合理を読み解き、どう訴求すると買うという行動になるだろうかと考えていきます。本書ではチーズケーキの例がとても分かりやすく書かれています。

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「ナラティブ」というのは医療でも使われていて、エビデンス重視の医療(EBM)から、患者のナラティブを用いた医療にシフトすべきではないかというナラティブ・ベースド・メディスン(NBM)が謳われています。なので、未顧客のナラティブを知るべきだと言われると、スッと理解することができました。

 

 

未顧客理解の5原則

 

本書によると、未顧客を理解するためには、5つの原則を押さえる必要があるそうです。

 

原則1:再解釈の重要性

文脈が変われば意味が変わり、意味が変わると価値が変わる

これは、商品は1つでもブランドの「切り出し方」は幾通りもあるということです。石がペットになった例はその究極かも知れません。

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原則2:市場の再解釈

未顧客は本来戦うべき市場を見通すための「レンズ」である

未顧客というのは、マーケターが想定する「平均的な顧客像」に当てはまらない人たちをターゲットにします。つまり、新規獲得というのは、「意味の奪い合い」であり、「生活文脈の陣取りゲーム」になるということです。ワークマンはまさに市場を再解釈することで今までと違う層の新規顧客を獲得しましたね。私もその一人です。農作業服はワークマン一択(笑)

 

原則3:ターゲットの再解釈

行動の背後にある欲求、抑圧、報酬から「顧客の合理」を理解する

「二重過程理論」によると、人はシステム1(無意識の自動的な情報処理)とシステム2(論理的で意識的な情報処理)を使って物事を判断しています。衝動買いはシステム1ですね。そして、「行動のきっかけ」「行動の動機となる欲求」「行動を条件付けする抑圧」「行動から得られる報酬」を可視化するオルタネイトモデルを用いて顧客の合理を理解する試みを紹介しています。

 

原則4:ベネフィットの再解釈

「ブランドの特徴」×「顧客への情報」=文脈最適のベネフィット

 ダブルジョパディの法則により、いくらブランドを差別化しても顧客基盤や全体の顧客数は変わりません。未顧客にとって大事なのは、簡単かつ確実に報酬を得られることなので、未顧客が置かれた文脈に適した「ベネフィット」を作り、訴求する必要があるということです。

 

原則5:ポジショニングの再解釈

モノの売り方ではなく、モノが使われる行動の増やし方を考える

未顧客にはそもそも無関心や非興味に理由や原因は存在しません。アンケートなどで調査をするとそれっぽい回答は集まるかもしれませんが、「選択盲(Choice blindness)」と呼ばれる後付けされた理由に過ぎません。「行動が報酬を生み、その報酬に理由が後付けされて、次の行動を生む」というフィードバックループを理解し行動変容を促したり、強化したりする方策を考えようということになります。

 

 

まとめ

 

理系的視点と文系的視点を行き来しながらマーケティングを考えるというのが面白かったです。

未顧客を増やし、サービスを再解釈するというのは、簡単そうに聞こえますが、なかなか難しいのではないかと思います。本書には例題もたくさん載っていたので、ゆっくり頭の体操として読んでみるのも良いなと思いました。