今回は、またブルーバックスに戻って、「日本の伝統 発酵の科学」(2018年)を読みました。
納豆、味噌、醤油など日本の発酵食品について詳しく書いてあるのですが、個人的に面白いなぁと思ったところをまとめていきたいと思います。
紅茶は発酵食品?
紅茶は緑茶と同じチャノキの葉を25℃程度で30~90分間もみこみ、赤銅色に変化するのを待って乾燥させたものですが、この工程を「発酵」と呼ぶそうです。
微生物は関与していないが、紅茶の製造者の間で「発酵」という言葉が一般的に使われている以上、紅茶を発酵食品から仲間はずれにするのはヤボというものであろう。
いや…私は仲間はずれで良いと思いますけどね(笑)。
国菌は麹菌!
日本は島国であり、自国の風土に合わせた独自の文化を形成してきましたが、発酵に使われる麹菌も日本にしかいない、伝統的な微生物だそうです。麹菌とはカビのことであり、黄麹菌、黒麹菌、白麹菌、紅麹菌、醤油麹菌などがありますが、一般的に麹菌というと黄麹菌(アスペルギルス・オリゼー)を指します。日本の麹菌は急性の肝障害を引き起こすアフトラトキシンというカビ毒を産生しない、祖先が選抜・育種してきたオリジナルカビだそうです。室町時代には種麹屋があり、99%を超える純度の種麹が流通していたというのには驚きです。
日本の国家は君が代、国旗は日の丸で、国花は桜、国鳥はキジ、国蝶はオオムラサキであれば、日本の国菌には麹菌がふさわしいだろうと、2006年に日本醸造学会大会で麹菌(Aspergillus oryzae=アスペルギルス・オリーゼ)が国菌に認定されたのだそうですよ。
Web検索してみても、国菌を定めている国なんて日本くらいです(笑)。
南北で違うお酒の作り方
お酒も発酵によって作られますが、日本は南北に長い島国なので、北と南でお酒の作り方が異なります。菌の性質を上手く使っていてすごいなぁと感心しました。
酒造りの起源は映画「君の名は」に出てきた口嚙み酒ですが、大量生産には向きません。
やがて、蒸米にカビが生えると酒ができることに気付き、米麹が種麹屋で造られるようになりました。冷凍機のなかった時代では、発酵槽の温度が必要以上に上がらないようにするため、雪の降る寒い時期に酒造りをする必要があったのだそうです。そのため、北国では冬に清酒が作られました。
一方、九州南部など温暖な地域では黒麹菌を用いて酒造りが行われたそうです。黒麹菌は鉄分が不足するとクエン酸が大量に発生します。乳酸菌すら生育できない環境で、酸に強い酒造酵母がじっくりとアルコール発酵を行うのですが、そのままでは酸っぱくて飲めないので、蒸留して香気成分とアルコールだけ揮発させ、焼酎にしたということでした。
清酒は冷たく冷やして、いも焼酎はお湯割りにすると美味しいですよね。
味の素は発酵由来
最近もX(旧ツイッター)で味の素を料理に使った料理家さんが「悪魔に魂を売った」と叩かれていましたが、旨味調味料のグルタミン酸ナトリウムはすべて微生物を用いた発酵法により生産されているそうです。各国の研究機関により詳細な調査が行われ、JECFAも1日許容摂取量を「指定なし」(設定の必要なしの意味)と定めており、旨味調味料が健康に良くないという言説のはただの都市伝説だそうです。
味の素のHPにも、「さとうきび等の天然の植物を原料に発酵法で製造している」と書かれていました。グルタミン酸ナトリウムが人体に悪害だというのなら、私たちはパンや納豆、チーズ、ヨーグルトまで食べられなくなってしまいますね。
細菌に感謝して、卵焼きには味の素を入れたいなと思います。
まとめ
私は歯科衛生士なので、「菌」と聞くとむし歯菌や歯周病菌をイメージしてしまいますし、どうやって駆逐してやろうかとついつい考えてしまいます(笑)。しかし、本書を読んで、日本人は菌と共に生きて来たのだなと実感しました。過去記事「菌のパワー」でも紹介したダンボールコンポストは3世代目を育成中ですが、もっと菌と仲良く共生する道も考えていけたらなと思います。
味噌は毎年母が作ってくれていますので、私はぬか漬けにでも挑戦してみようかな。