歯科衛生士のよみもの

kindle unlimitedで本を読み漁り、感じたことを考察していくブログです。

削らないむし歯治療

今回読んだ本は、名医は虫歯を削らない 虫歯も歯周病も「自然治癒力」で治す方法(2016年)です。

 

 

私は歯科医師ではないので、治療効果などについては専門外です。つまり、本書で良いとされているドックベスト療法については「分からない」としか言いようがありません。

一方、むし歯や歯周病の予防について同意する部分と「それは違うのではないか」と同意できなかった点があるので、私の歯科衛生士としての考えを説明していきたいと思います。

 

 

歯を削ると病気になる

 

〇概ね同意する

 

歯医者は削らないと儲からない、虫歯治療が新たなむし歯を引き起こす、神経を抜くと抜歯へのカウントダウンが始まる、抜歯すると骨が痩せるといったことが書かれていますが、概ね同意します。歯は一度削ると平均40年と学生の頃に教えられた記憶があります。10歳の時に治療すると、50歳で抜歯ということですね。臨床の経験からも、一度治療した歯がむし歯になるというのはとても多いです。特に神経を抜いた歯はかなりもろくなってしまいますので、今はできるだけ温存する治療になっています。また、抜歯した部分の骨は痩せて細くなるため、天然歯なのかインプラントなのかを見分ける際には、骨幅を見ると分かります。

なお、いくら予防を頑張っても、歯質の異常や歯の形態の異常でどうしても虫歯になりやすい人がいます。息子の歯も盲孔という歯の形態異常があり、永久歯が萌出した時点で気づけたので穴が開く前に治療することができましたが、一般の方では気づけないと思います。闇雲に歯医者を毛嫌いするのではなく、頼りになる歯医者さんや歯科衛生士さん(知り合いでもOK)がいるとすぐに相談できて良いなと思いました。

ただ、「病気になる」の部分は必ずしもそうではないと思います。病気になることもある、くらいでしょうか。

 

 

免疫が落ちると歯周病が進行する

 

◎強く同意する

 

口の中にも腸と同じように様々な菌が住んでいて、悪玉菌もいます。レッドコンプレックスと呼ばれる3種は特に血が好きで、酸素が嫌いで、毒素を持ち、歯周病を増悪させることが分かっている菌です。PG菌は、心筋梗塞で亡くなった方の血栓から見つかった菌としても有名です。レッドコンプレックスがいると、その他のそこまで悪さをしない菌までが歯周病を増悪させるようになります。

歯周病は歯と歯ぐきの境目で行われる歯周病菌と免疫との戦争だと考えると分かりやすいと思います。歯周病菌は歯ぐきの毛細血管から体内に侵入しようとしますが、免疫がそれを阻止します。歯ぐきが腫れたり膿が出るのはこのためですね。戦況が悪化すると、骨へ炎症が波及するのを防ぐため、破骨細胞が自ら歯を支えている骨を溶かします。支える骨がなくなると歯がぐらぐらになりますし、自分で骨を溶かしているので痛みがありません(炎症で歯ぐきが痛むことはあります)。

免疫がしっかりと働けば、歯周病菌を押し返すことができますが、歯ぐきに十分な血液が供給されない喫煙や、免疫が低下する糖尿病などの場合、なかなか歯周病が治りません。強いストレスを受けて一気に増悪する方もいます。

歯医者では歯石を取ったり歯周ポケットを超音波という機械で洗浄したり(キャビテーション効果で気泡が発生するため、酸素が嫌いな歯周病菌に効果が期待できる)、薬をつけたり歯みがき指導をされたりしますが、私は免疫力のアップが一番効果があるのではないかと思っています。かみ合わせや歯の根っこが原因の場合もあるので、そこは歯医者さんにしっかり見てもらった上で、歯周病だと言われたら、治療に頼るだけでなく、免疫力を上げる生活改善を検討してほしいと思います。

 

 

シュガーコントロールが虫歯や歯周病の予防になる

 

〇概ね同意する

 

著者さんは虫歯の方にシュガーコントロール歯周病の方には糖質制限を指導しているということですが、一定の効果は期待できると思います。

まず、虫歯を作る菌は「糖」を分解する時に酸を産生します。逆に言うと、「糖」を一切摂らなければ(現実的には不可能ですが)虫歯はできないということになります一回に食べる糖の量よりも糖の滞在時間が問題になるため、頻回摂取をしないようにしたり、べたべた歯に付く甘い物を食べた時は歯を磨く、またはうがいして洗い流すことが効果的です。

また、歯周病は糖尿病と相互関係があることが分かっています。つまり、糖を摂りすぎると糖尿病が悪化し、引いては歯周病が悪化するということに繋がります。過去記事妊娠と糖尿病とケトン体でもあったように、糖質制限を行うのであれば、血液検査をしたり、ケトアシドーシスに対する説明が必要なのではないかと思いました。

 

ddh-book.hatenablog.com

 

 

 

虫歯は体内から進む

 

×同意しない

 

本書では、

「身体を流れている物質はやがて歯の神経を通り、歯の表面に出てくる」という象牙質の液体輸送システムにより、細菌が歯の表面を溶かすことなく内側に流れ込むこともある

と述べられています。

 

象牙質には象牙細管という直径1~2.5㎛(表層に行くほど細い)の管があり、象牙細管内液という体液で満たされています。歯ブラシや冷たいもの、熱い物、酸っぱい物、甘い物などによりこの内液が動くと、歯髄内部の神経の末端部分を刺激して、痛みが生じますが、これを「知覚過敏」と呼びます。

 

一方、歯の表面は体の中で一番硬い組織であるエナメル質で覆われており、エナメル質は一旦形成されると修復されない、水晶のような組織です。エナメル質を突破した、つまり、エナメル質が形成不全など象牙質が露出していたり、むし歯で穴が開いたり削った場合、そこから象牙細管に菌が侵入し、内部で広がった虫歯を作ることは知られています。

むし歯菌には色々いますが、ミュータンスは、酸素がないと生きられない菌で、酸性環境下でもどんどん増えてエナメル質を溶かす強力な菌です。直径1㎛くらいなので象牙細管に入ることはギリ可能だと思いますが、息ができずに長くは生きられないと思います。一方、ラクトバシラスという菌は、ミュータンス菌ほど虫歯を作る力は強くありませんが、酸素があってもなくても生きられる菌です。つまり、ミュータンスがエナメル質に穴を開け、ラクトバシラスなどの酸素がなくても生きられる菌が象牙細管内に侵入することで歯の内部に虫歯を作ると考えられます。

歯の表面を溶かすことなく、歯の内側に細菌が入り込むのはエナメル質がある限り難しいと考えられるため、歯科衛生士としては、エナメル質を突破されないことが大事だと考えます。エナメル質形成不全や歯の形態異常、深い溝は事前に埋めることが可能です。穴が開く前に処置しておきたいですね。

 

また、唾液が酸性の人は虫歯が多いということで、本書ではアルカリ性食品を食べたり重曹を飲むことを勧めています。アルカリ性の食品を摂ったところで体内のpHはホメオスタシスにより一定に保たれるため、唾液の性状変化に効果はないと思います。一方、炭酸やジュースなど、エナメル質の臨界PHを下回る食品を頻回に摂取すると、エナメル質が溶け出し酸蝕症になってしまいますので、沢山唾液を出して口の中を清潔にすることを心がけたいですね。

 

 

フッ素に虫歯の抑制効果はない

 

×全く同意しない

 

エナメル質を突破されないことが大事だと先に述べましたが、虫歯になりかけた(脱灰といいます)エナメル質は唾液により自然に修復することができます。これを、再石灰化と言います。エナメル質の表面(象牙質はエナメル質よりも再石灰化しにくいと言われる)は常に脱灰⇔再石灰化を繰り返しながら徐々に強くなりますが、フッ素が取り込まれると、フルオロアパタイトというとても酸に強いエナメル質に変わります。世界には(日本でも)水に含まれるフッ素が比較的多い地域がありますが、総じて虫歯が少ないということから、フッ素の有効性についた多くの研究が行われ、水道水にフッ化物を添加してる国もあります。WHOでもその他の国際機関でも、「フッ素の使用による虫歯予防効果」は最も高いランクでエビデンスがあるとされています

本書でWHOの「歯磨き」に虫歯を予防する効果はないことを紹介しているにも関わらず、フッ素について完全に無視するのは違和感しかありません。フッ素によりエナメル質を突破されない患者が増えてしまうと持論が成り立たなるからなのではないかと陰謀論を持ち出したくなってしまいます。

 

 

まとめ
 
象牙質の液体輸送システム(Dentinal Fluid Transport)をEBSCO(外国雑誌論文オンラインデータベース)で検索すると、5本しか出てきませんでした。しかも、ネズミ、豚、牛に関する論文です。しかし、ググると歯科医院のサイトが山ほど出てきます。これは何を意味しているのでしょう?
「〇〇が言っていたから」ではなく、何事も自分の頭で考えることが大事だと思います。