今回は、「日本人が誤解している東南アジア近現代史」(2020年)を読みました。
東南アジア各国の人口推移、歴史的な日本や他国との関係、食料・農業事情についてとても勉強になったので、知らなかったことをまとめたいと思います。著者さんは東南アジアの各国の農地を自分の足で見てきて、直接話しを聞いてきているそうで、外国人には(捕まるので)言えない本当の意見や考えなども書かれていてとても興味深いなと思いました。「あの戦争」と大戦のことをハリポタのヴォルデモートのように表現します(多分、本書のこだわり)。
ベトナムは中国が大嫌いです。なので、華僑(かつて中国に生まれて後に外国に移住していた人々やその子孫)もあまり居ません。全人口の86%をキン族が占め、少数民族との間に深刻な対立は生まれていません。
ベトナム戦争でアメリカと戦っていますが、陸上戦は行われなかったのでアメリカ人はさほど嫌いではないそうです。親日国であり、日本人が仕事をするのにはおすすめだそうです。
タイは外交上手であり、東南アジアで唯一植民地にならなかった国です。現在、少子高齢化が進行しています。国内の政治的な対立は、実質的にタイを動かしているの中国系末裔の「黄色シャツ」と北部や東北部の農村地帯に住む「赤シャツ」の争いになります。また、上座仏教国で、マレーシア国境付近に住むイスラム系の人々とも深刻な問題を抱えているそうです。
「微笑みの国」とも呼ばれますが、あの戦争で日本はタイに手玉にとられ、裏切られたとも言えます。「微笑みの国はなかなか怖い」ようですよ。
ビルマ人が最も多い仏教国ですが、人口の半分は少数民族であり、イスラム教徒であるロヒンジャの問題もあります。ミャンマーをまとめていくには軍隊が不可欠であり、親日ではありますが中国との関係も切り離せません。ノーベル平和賞を受賞したアウンサンスーチーさんも今は軍に拘束されていますね。なかなか政治的に安定しない国です。
あの戦争で日本軍はビルマを占領後、無謀なインパール作戦で惨敗し、ほとんど食糧を持たない敗残兵の多くが途中で餓死しました。インパールに進撃する際、日本軍は農家から水牛を徴発するなどしたにも関わらず、ビルマの農民は敗残兵に進んでお粥を差し出したのだそうです。日本人はミャンマー人に関わると「ミャンメロ」ミャンマーにメロメロになってしまうということでした。
マレーシアでは9つの州が持ち回りで王様を務めますが、政治権力は持っていません。マレー系、華僑、インド系の人々が住んでいて、華僑はビジネスが上手いため、マレー系の人は華僑に雇用される関係を不満に思っています。あの戦争でマレーシアが日本の統治下になった時、日本軍が華僑を迫害したためマレー系の人々には解放軍に映ったそうです。マレー系のマハティール首相がルックイースト政策をしたことからも親日国と言えますが、華僑と仕事をするときは注意が必要です。
あの戦争の時、敗戦時まで日本軍が占領しましたが、占領初期に日本軍は数千人の華僑を虐殺しています。この虐殺に対して戦後に戦争裁判が開かれましたが、戦死や逃亡により裁くことができなかったため、シンガポールに住む華僑の心にくすぶっているそうです。
イスラム教の国で、東南アジアで最大の人口を有します。インドネシア経済の90%を華僑が押さえています。あの戦争で日本は石油欲しさにインドネシアに侵攻しましたが、オランダの支配から解放することにつながりました。日本軍が降伏した時、連合国に渡すことになっていた武器をインドネシアに渡し、オランダ軍が占領しに戻ってきた際には、多くの日本兵が日本に帰国せずにインドネシアの人々と共にオランダ軍と戦ったため、インドネシアは親日国になります。デヴィ夫人の夫であるスカルノ初代大統領は、日本軍が牢獄から解放したのだそうですよ。
あの戦争の時、フィリピンにはアメリカ軍がおり、日本軍と激しく衝突しました。バターン半島の戦いでは肉弾戦の末、日本軍は占領には成功しましたが、7万人の捕虜を炎天下のなか120km歩かせてマニラまで移動させ、食糧も少なく1万人が死亡したそうです。その大部分がフィリピン兵であり、戦後、「バターン死の行進」の責任を追及された本間中将は捕虜虐待の罪状で銃殺刑に処せられましたが、フィリピン人にも恨みを買ったことは忘れてはいけません。
また、ルソン島の戦いでは山岳地帯に逃げ込んだ日本兵が抵抗する住民を殺戮して食糧を奪っています。この戦いに巻き込まれて100万人のフィリピン人が死亡したとされるそうです。
日本はフィリピンに対して多額のODAを実行しており、現在、フィリピン人の対日感情はそれほど悪くはないそうですが、知らなかったでは済まない案件です。山岳地帯に日本人1人で行くのはやめた方が良いのだそうです。
東南アジアの人々は概ね中国が嫌いですが、カンボジアは中国の傀儡と言っていい国だそうです。中国が好きだからではなく、タイとベトナムに侵略され続け、独裁政権も合間って孤立しています。そこに中国から多額の投資が流れているということでした。中国はカンボジアに軍事基地を作りたいとまで考えているのだそうです。カンボジアもお金で首根っこを掴まれている状況ですね。
記載が少なくて、山岳国でたくさんの少数民族がいること、国境はあってないようなものだったので周辺国によく攻め込まれたこと、フランスの植民地で、ベトナム人に統治された経験があるくらいしか分かりませんでした。ベトナム人嫌い?かも知れません。
本書を読んで、東南アジアにも民族問題だけでなく宗教の問題があるのだということがわかりました。あの戦争で日本は何をしたのかだけでなく、各国の立場から見た日本についても知っておくことは、現地の方とコミュニケーションをとる上で大事なことだなと思いました。
毎日本を読んでいるのに、学ぶことが尽きません。