歯科衛生士のよみもの

kindle unlimitedで本を読み漁り、感じたことを考察していくブログです。

母乳育児と歯や口の健康

我が家の長男次男は双子ですが、ずいぶん長く母乳で育ちました。はっきりとは覚えていませんが、多分4歳近くまでおっぱい星人だったと思います(笑)ユニセフによると世界の平均は4.2歳だそうですよ。

 

今回は「赤ちゃんは全てを知っている「母乳」から始まる子育て論」(2023年)を読みましたので、ご紹介しつつ、歯科衛生士として母乳育児について語ってみたいと思います。

 

 

母乳育児のメリット

本書にもたっぷりと書かれていましたが、母乳育児は赤ちゃんにとってのメリットばかりです。やっぱり人間は哺乳類なんだなと思います。

私が授乳中参考にさせていただいていた日本母乳の会編「新母乳育児なんでもQ&A」によれば、母乳育児のメリットは以下の通りです。

栄養的にパーフェクト

赤ちゃんを病気から守る

肥満、心筋梗塞、糖尿病を防ぐ

乳幼児突然死症候群が少ない

赤ちゃんの知能が高くなる

母体の回復を促す

子育てが楽しくなる

ダイエットになる

マタニティ―ブルーになる人が少ない

避妊の役割

乳癌にかかりにくくなる

 

 

 

歯並びや口の健康との関係

「赤ちゃんは〜」の著者さんは、歯科医師としての経験から、健康な口腔を保つために毎日45分のウォーキングや母乳育児を推奨されています。(後半はマウスピースの紹介が多い気がしましたが…)

母乳を飲む時は、咀嚼筋を使って噛むように飲むので、筋トレになるというのは間違いないと思います。実際、筋電図を付けた実験でも明らかに母乳の方がよく筋肉を動かします(参考:赤ちゃんからの歯科保健 子どもと口の未来のために,メディサイエンス社,1993年)。本書では、口唇閉鎖、舌の位置が正しいところに収まるので、正しく上顎骨の成長を促し、口腔の筋肉、骨が発達し、鼻呼吸で眠れるので歯並びを悪くすることを予防するということでした。

 

 

母乳育児は歯並びが良くなる訳ではない

本書にも書かれている通り、母乳育児では「歯並びを悪くすることを予防する」だけであり、歯並びが良くなるわけではありません。歯がキレイに並ぶためには遺伝による顎骨、歯の大きさ、習慣による口腔周囲の筋肉の強さや動かし方などの要因は多岐に渡ります。母乳育児による口腔の筋肉発達は哺乳瓶のそれよりも良いですが、離乳食~の食事内容によって十分に挽回が可能です。逆に、口の発達段階に合わせた離乳食を与えないとせっかくの母乳育児アドバンテージも消えてしまうということです。

 

口腔機能発達不全症

2018年より小児の「口腔機能発達不全症」に対して保険で機能訓練が受けられるようになりました。お口の正常な発達は一生影響しますので、離乳食の正しい知識や専門家のサポートはとても大事なのですが、多くの自治体では最初の健診は1歳半であり、すでに離乳食完了期なんですよね…。

かく言ううちの双子は母親が歯科衛生士にも関わらず、お口ぽかん(口腔閉鎖不全)になってしまいました。歯並びにも問題があり、矯正歯科にも通っています。母乳育児をすれば歯並びが良くなるわけではない、筋力や骨が正常に発達するわけではないことを痛感しましたし、個人個人で異なることもよく理解しておく必要があると思いました。

 

未熟児・双生児の母乳育児

また、先述のように母乳育児が赤ちゃんにとってとても良いことは分かります。しかし、私は双子を早産・帝王切開で産み、母乳育児を必死でやってきましたので、その大変さも痛いほど分かります。

双子でお腹の張りもあったため、妊娠中の乳頭マッサージもできず、出産してからは出口のない母乳がパンパンに腫れ上がり胸が色も硬さもリンゴのようになりました。赤ちゃんたちもNICUに入院しているので、助産師さんに搾乳を教えてもらい3時間おきにタイマーをかけて夜中も搾乳。手が腱鞘炎になるほど頑張っても、数mlしか出ません(涙)。それでも母乳育児をしたいと必死に搾乳し続けました。入院中は乳腺が詰まって痛い時は助産師さんにマッサージをしてもらうことができましたが、退院してからは自分で何とかするしかありません。入院している子どもたちに毎日搾乳を届けるため、分泌量を少しでも増やすために、夜中だろうと毎日3時間おきに搾乳していました。

GCUに移ってからは直母のためにに毎日通いましたが、未熟児だったため赤ちゃんの筋力もなく、吸うのも下手で全然飲めない状態でした。授乳後計量しても全く体重が増えておらず辛くて悲しくて…

 

退院後の母乳育児

双子が2,300gを超えて退院してからは、乳頭混乱を起こさせないためにまず母乳、その後ミルクを足すという順番を死守しました。本書では「2か月までは哺乳瓶を使うな」と書かれていますが、未熟児には無理な話です。母乳相談室という哺乳瓶が乳頭混乱を起こしにくいということを調べて、かなり長く愛用させていただきました。歯科医師推奨という哺乳瓶も色々と出ていますが、ヌークや母乳実感などと飲み比べてみたところ(笑)、母乳と同じように噛むように飲まないと飲めませんでした。

 

体重は増加しているのか、母乳は何ml出ているのか分からないので、毎日不安でいっぱいです。乳腺が詰まって痛むことも多々ありましたが、自力で何とかしました(笑)

そんな努力が実り、離乳食がある程度食べられる頃になると、ミルクの追加は必要なくなりました。母乳をあげていると、背中が冷や~っとするほどよく飲んでくれるようになり、男子高校生並みに食事を摂っても全然太りません。おっぱいなしでは寝かしつけも出来ないほどになり、冒頭に書いたようなおっぱい星人になりました。

 

働くママの母乳育児

私の住んでいたところも保育園の待機児童が多い地域で、近くの保育園に何度もお願いし、やっとのことで双子が7か月の時にフルタイムで仕事復帰しました。お昼休みには空き部屋を借りて搾乳し、冷凍保存、保育園ではミルクの生活です。人間の身体というものは素晴らしいもので、そのうちお昼の搾乳をしなくても胸は張らないし、夜にはちゃんと出るようになりました。(これは、著者さんと同じですね。)

長く母乳育児、特に添い乳をするとむし歯が心配になりますが、そこは歯科衛生士の知識を活かして完璧な口腔ケアと感染予防、3歳までお菓子禁止を徹底したので問題ありませんでした。

「小児科と小児歯科の保健検討委員会,母乳とむし歯-現在の考え方,平成20年6月19日改訂」には以下のように書かれています。

早い時期からミュータンス菌が多くてむし歯になりやすい子どもが存在する。1歳以降に母乳を与えている場合は、一度小児歯科を受診し、むし歯になりやすいかをチェックしてもらいたい。

ここに書かれているように、ミュータンス菌に早期感染して添い乳によるむし歯のリスクが高いのかどうかは見た目では分からないので、一般の方は一度歯科受診をして、ミュータンス菌の検査をされることをお勧めします。

とは言え、夜は特に双子には寝てもらわないと困るので、母乳はとてもとても役に立ちました。夜中にどちらかが起きても、ぱっと咥えさせればそのまま寝てしまうんですから(笑)。母乳を使わずに寝かせる方法がなかったので、長く母乳を続けてしまったというのもありましたね。

 

まとめ

私はとても辛くて苦しかったですが、結果的に母乳育児をしてよかったと思っています。長男・次男の時に頑張ったおかげで、三男の時の授乳はとっても楽にできましたし、楽しかったです。

私はどうしても母乳育児をしたかったのでどんなに苦しくても頑張りましたが、こんなに辛い思いをしてまで母乳にこだわる必要はないし、押し付けることも出来ないと心から思います。母乳をあげることよりも、お母さんが笑顔で過ごすことができれば、その方が何倍も子どもにとって良いのではないかとも思っています。

一方、母乳で育てたいと思っているお母さんのためのサポートがまだまだ足りないとも感じます。母乳で育てたいと思っていたのに諦めてしまうのは本当にもったいないです。助産師さんと歯科衛生士がもっと協力して、地域のお母さんたちのサポートをしていけたら良いのになと思います。

現在私は、微力ながら、助産師さんの養成校で口腔についての講義を担当させて頂いています。そこでは、助産師の卵である学生さんに母乳に対する歯科衛生士としての思いを思いっきり話させてもらっています。

日本中のお母さんが、むし歯の心配なく母乳育児を楽しめるようになったら良いですね!