今回は、「砂糖の世界史」(2016年)を読みました。
本書は、砂糖がどのように「世界商品」となったのかについて説明しています。2021年の世界砂糖生産量は1億6,710万トンもあったようですが、今、当たり前に砂糖がある状態というのは、昔では考えられなかったのだということが本書を読んで良く分かりました。
砂糖は薬だった
11世紀末にキリスト教徒がさとうきびを栽培するようになって普及しだしたようです。それまで蜂蜜しか知らなかったヨーロッパ人には砂糖の強烈な甘さと純白さは神秘的に写り、薬や権威の象徴だったと言います。11世紀の有名なお医者さんも「砂糖菓子こそは、万能薬である」と言っていたようですし、12世紀イタリアの大神学者トマス・アクィナスも「砂糖は食品ではなく薬なので、キリスト教で決められている断食の日に砂糖を口にしても断食を破ったことにはならない」という内容の本を残しているそうです。
砂糖のあるところに奴隷あり
砂糖が普及し、莫大な儲けを生むようになると、プランテーションで奴隷を働かせるため、奴隷商人がアフリカから奴隷船にぎゅうぎゅうに奴隷を積み込みカリブ海やブラジル、アメリカ南部に運んだそうです。同じ世界商品のたばこと比べても砂糖のプランターが得る収入はけた違いだったようで、ときの国王をしのぐほどだったそうす。
さとうきびは熱帯や亜熱帯に適した植物であり、連作は土地を痩せさせ、収量や病害への影響が起きるため、点々と栽培地域を移動する必要もあり、多くの部族が土地を奪われ絶滅させられたということでした。
砂糖とむし歯
砂糖が日本に本格的に入ってきたのは、ポルトガル人がもたらした菓子類からだろうということです。そこから島津(薩摩)藩が支配していた奄美大島などでさとうきび栽培が始まったようです。和菓子は奈良時代からある日本のお菓子ですが、当時はあまり甘くなく、江戸時代ころから急速に砂糖をたっぷり使ったお菓子(カステラ、金平糖など)が広がったようです。
本書によると、16世紀の医学書には砂糖がむし歯を作りやすいことが載っていたそうです。
むし歯の原因菌であるミュータンス菌は砂糖(ショ糖)が大好きです。他にもむし歯を作る菌は色々いますが、ミュータンス菌がむし歯の突破口を開く(エナメル質に穴を開ける)と言われています。つまり、江戸時代以降はミュータンス菌にとってヒャッホイ状態だったのではないかと想像できます。当時は平均寿命も短かったし、裕福な人しか食べられなかったはずなので、そこまで大問題にはならなかったのかもしれません。しかし、歯科医療の知識が輸入され、広がった時期とも呼応します。きっと、それ以前からヨーロッパやアメリカではむし歯に悩まされる人が多く、砂糖の普及によって歯科医療も発展せざるを得なかったといったところではないでしょうか。
歯科衛生士の誕生
歯科衛生士は戦後、GHQの占領下において保健所で「歯牙および口腔の疾患の予防処置」を行う歯科衛生業務の専門職として誕生しました。実は歯科衛生士は、保健師さんのように公衆衛生がもともとの役割だったんです。
その後、1955年に「歯科診療の補助」が歯科衛生士の業務として追加されました。砂糖がどのように世界中に広がったのかを考えると、戦後安価な砂糖が大量に普及し、むし歯も急速に増え、予防どころじゃなくなったという状況が見て取れますね。
過去記事で、80年代は「むし歯の洪水」だったと書いたように、歯科衛生士の仕事も砂糖によって予防→治療へシフトしていったのだと思いました。
しかし、本書でも最後のほうで述べられているように、かつて万能薬だった砂糖はむし歯だけでなく糖尿病や肥満の原因として敬遠され始め、「世界商品」ではなくなってきています。日本でも国民のむし歯は減り、歯科医療も治療→予防へシフトしていると思います。歯科衛生士も本来の予防処置を行い、もっと保健所や保健センターなどで公衆衛生業務に携わるようにシフトしていくのかもしれませんね。
まとめ
私も甘いものが大好きなので、今、砂糖のたくさん入ったお菓子や飲み物をいただけるのは本当にありがたいことなんだなと再認識しました。歯科衛生士をしていると、どうしても砂糖は敵になりがちですが(笑)、砂糖にも日々感謝して過ごしていきたいと思います。