「LGBT理解増進法」(正式名称:「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」)が2023年6月16日に国会で成立し、23日に施行され話題になりましたが、私は女性だと思って生きてきたので、なんだか他人事です。
そんな中、「なぜ男は女より早く死ぬのか 生物学から見た不思議な性の世界」(2014年)を読んで男女の境界線について考えたので、ご紹介します。
性のない生き物
「性」が誕生する前、原核細胞の時代は8億年も続いたそうです。今でもウイルスは細胞という構造を持たず性なしで増殖することができます。
分裂ではDNAを複製して、両方の細胞に分配するクローンになりますが、クローンでは環境の変化に全滅してしまいます。それのため、ほかの個体(ほかの細胞)と遺伝子DNAの一部を交換するというシステムを導入しました。それが性の始まりになります。
性別は2つとは限らない
ゾウリムシには、4性や48性といった多性が見られるのだそうです。理論的には2性よりも4性、4性よりも10性のほうが異性に巡り合う機会が多くなるためで、移動能力の低い生物に限って起こると考えられているそうです。ゾウリムシは接合というシステムで遺伝子の交換を行っているだけなので、人間のような精子(養分を持たない代わりに沢山作れる小型の配偶子)、卵子(養分を多く含む代わりに数が少ない大型の配偶子)の場合は、進化の過程で2性になっていったということでした。
変化する性
しかし、生物の中には性別を操作したり、途中で性転換するものも結構います。
ミツバチは受精卵から発生した固体は全てメスで、オスは未受精卵から発生するそうです。女王蜂は巣穴が大きければオス卵、小さければメス卵を産むというように卵の性別を自由に操作しているようです。
雪虫(トドノネオオワタムシ)は春から夏にかけては単為生殖(メスだけで子供を作る)をしてメスを産みますが、秋が深まるころになるとオス・メスの虫を産出し、数日後にこのオス・メスが受精卵を樹皮の裂け目などに産み死亡するのだそうです。つまり、季節に合わせて単為生殖と両性生殖を繰り返しているということです。
カクレクマノミといえば、映画ファインディング・ニモが思い出されますが、最も体の大きなメスとオス集団、さらに複数の稚魚や幼魚でイソギンチャクの中に隠れてで暮らしているそうです。オスの中で一番体の大きな固体だけが生殖行動を行い、他の小さいオスは参加できない社会構造になっています。メスが何らかの理由でいなくなると、一番体の大きいオスがメスに性転換してしまうみたいです。社会的地位で性転換する生き物とは、面白いですね。
その他にも温度で性が変わる爬虫類など、性は固定されたものではないというのが分かりました。性転換にはコストがかかるため、体の作り変えの方が繁殖の利得よりも上回る場合には性転換が起きますが、人間には難しそうです。
人間はもともと女性
人間はもともと女性で、男は無理やり男になります。もっと詳しく説明すると、SRY遺伝子の作用で精巣が作られ、アンドロジェンシャワーにより男になるそうです。SRY遺伝子が作用し、アンドロジェンシャワーは出たのに、細胞がそれを受容するタンパク質を持たないと身体は女性のまま体内に精巣を持つ突然変異「精巣性女性化症候群」となってしまうのだそうです。
人間はもともと女だという話はどこかで聞いた気がしますが、女性だと思って生きてきたのに、卵巣ではなく精巣を持っていたなんて、ものすごい衝撃ですよね…
IPS細胞
山中教授が発見したIPS細胞はノーベル賞を受賞しましたが、IPS細胞を使えば、男の細胞から卵子を作り、女の細胞から精子を作ることも可能になるそうです。もちろん倫理的に不可能です。理論上の話です。
人間が単為生殖をした場合、”それ”は誰なんでしょうね?うちには一卵性双生児がいますが、遺伝子は同じでも、それぞれの個性も歯並びも違います。自分と同じ遺伝子の子を育てるってどんな感じだろう…などと妄想が膨らみます。
まとめ
本書を読んで、男と女の境界線をくっきり引くことはできないということが良く分かりました。つまり、男と女で線引きされた制度に合わせられない人が必ずいることになります。一方、スポーツ界においては明らかに男女差があり女性は勝てないので、分けざるを得ないのかなとも思います。
過去記事「悟った人」で学んだせいか、様々なものに境界線を引くことに違和感を感じています。私と私以外、男と女、大人と子供、日本人と外国人などなど。
線引きするから差別が生まれる訳なので、皆一人ひとり一生懸命生きている、それでいいんじゃないかなと思います。「~なんだから~すべき」という言葉を聞くと、心が苦しく感じる今日この頃です。