歯科衛生士のよみもの

kindle unlimitedで本を読み漁り、感じたことを考察していくブログです。

フェミニズム

今回は、上野千鶴子先生の「生き延びるための思想 新版」(2021年)を読みました。

 

 

 

 

言葉は難しいけれど、女性なら教養として一度は読んでおくべき内容だと感じました。各章の「問い」に対して自分はどう考えるのか、すごく頭を使います。そして、最後の自著解題を読んで、涙が出ました。

とても全ては伝えられませんが、心に響いたところをまとめたいと思います。

 

 

フェミニズムとは

Wikipediaによると、

フェミニズム(英語: feminism)とは、女性解放思想、およびこの思想に基づく社会運動の総称である。

と書かれています。

男女が平等な権利を行使できる社会の実現を目的とする思想または運動であるという考えが一般的な解釈かも知れませんが、女とは何者かは女自身が決めることを要求してきたのがフェミニズムだったと著者は述べます。

 

 

男女平等・男女共同参画

2023年6月に世界経済フォーラム(WEF)が発表した最新版「ジェンダーギャップ・レポート」の男女平等度ランキングで、日本は146か国中125位であり、男女間格差が浮き彫りになったとニュースになりましたね。

 

男女平等は正しいのか?

 

この問いに対して、兵役と市民権を用いて説明していきます。女に与えられているのは二級市民としての限定された権利ですが、一級市民としての権利を求めるのであれば、その義務として兵役が課せられることになります。

 

市民権のジェンダー平等とは、市民的諸権利と義務との分配平等をさす。そのなかには兵役が含まれているが、兵役とは義務であると同時に、国家が独占する暴力を行使する権利でもある。

(中略)

女も一級市民権を求めて、公暴力の行使の権利の分配平等を要求すべきなのだろうか。

 

これに対し、アメリカの主流派フェミニストたちは、軍隊への女性参加を権利と見なし、軍隊への女性参加を求めました

 

映画「G.I.ジェーン」の世界ですね。

 

 

 

 

そこには性の問題が出てきますが、それでもアメリカではさらに男女平等を求めて、女性も軍事活動に参加するようになったそうです。

 

 

日本のフェミニズム

日本には自衛隊はありますが、軍隊はないので、アメリカのようなフェミニズム運動はあまりピンときませんよね。

 

そう思っていると、軍隊は国が公的に認めた暴力ですが、家長男性の私的権力も公的に保護されてきたと指摘します。DVや虐待は、婚姻によって女が法的人格としては無権利状態になって夫の支配権のもとにおかれる状況下で起き、プライバシー原則のもと一種の無法地帯となっていることを明らかにします

 

女は女であるだけでは弱者ではないかもしれませんが、女は子どもを産んだとたんに弱者になります。女は介護すべき老人や、病人を抱えたとたんに弱者になります。

 

フェミニズムというのは、女も男なみに強者になろうという思想のことではなく、弱者が弱者のまま尊重される社会をつくろうとした思想であると説明します。弱者の解放は、「抑圧者の真似をする」ことでは解決されません。

 

 

逃げよ、生き延びよ

弱者が生き延びようとしたときに、弱者は敵と戦うということをしなくてもよい。

(中略)

強者になろうとする者は、戦いを選ぶかもしれないが、弱者の選択肢はたった一つ、「逃げよ、生き延びよ」なのだ。

 

戦時中は、女も否応なしに巻き込まれ「聖戦」の遂行にも熱心に協力しました。そして、8月15日、国家も、軍隊も、権力も、行政も、何もかもまったく当てにならなくなったそのときに、明日の暮らしを求めて立ち上がり歩き出したのは、ほかならぬ女たちでした。女の思想は「生きるための思想」でした。

 

日本は超高齢社会に突入していますが、ケアの世界では圧倒的な権力の非対称性が存在します。かつて権力者だった男性も皆弱者となる世の中においては、戦時中に見られたような「死ぬための思想」ではなく、本書のタイトルでもある「生き延びるための思想」が必要であると著者は説きます。

 

 

津波てんでんこ

私が涙したのは、津波てんでんこについての記述です。

上野先生は東京大学の最終講義に代えての中で

津波てんでんこ」で逃げることができるのは、強い人たちだけです。高齢者、障害者、子ども、病人。そういう弱者たちを抱えた女。妊婦、産婦。このような人たちが災害弱者でした。

と述べていますが、私はこれにとても違和感を持ちました。それは、南海トラフ巨大地震で最大30メートルを超える津波が想定されている高知県非難訓練で、小学生が高齢者の手を引き、中学生は保育園児を負ぶって高台へ逃げるという報道があって炎上したのを思い出したからです。(現在、このNHK記事は書き換えられています)

津波てんでんこ」とは、津波が来たらてんでばらばらに逃げなさいという教えです。弱者を助けながら逃げては自分も死んでしまうという教えなのです。

 

しかし、本書には後日譚として以下のような記述がありました。

津波てんでんこ」とは、家族も友人も、それぞれがそれぞれの判断できっと生き延びてくれる、だから私も自分のことだけ考えて生き延びよう、きっときっと生きて再会できる……という相手に対する信頼と期待の言葉だ

(中略)

わたしはあの子をただ他人の助けを待つだけの、上からの指示に従うだけの人間には育てなかった、だからわたしは安心して逃げられる……それが「津波てんでんこ」

これを書きながらも涙が止まりません…子育て頑張ろうと思いました。

 

 

まとめ

これまで男女平等について、これほど深く考えたことはありませんでした。

女性が男性化している昨今において、それは、兵役の義務ではないにしても経済活動の義務を負っている上に成り立つ一級市民としての権利を誇示しているだけであり、別の2級市民を作り出しているだけであると考えるようになりました。

 

妊娠した女性や子ども、要介護者、病人だけでなく、過去記事「頑張れない非行少年」のような社会的弱者が弱者のまま尊重される社会というのは、資本主義経済の中で成り立つのか

 

ddh-book.hatenablog.com

 

実現させるためには、やはり女性の政治家が増えていかなければいけないのではないか。そうなると、権力を持った女性が「抑圧者の真似」をし始めるのではないか。そうならないためにも、「女性学」を教養として学ぶべきなのではないか。

冒頭にも書いた通り、賛否はあるかも知れませんが、すべての女性が一度は教養として読んでおくべき本だなと感じました。