歯科衛生士のよみもの

kindle unlimitedで本を読み漁り、感じたことを考察していくブログです。

生きるための自傷行為

今回は、自傷行為の理解と援助(2014年)を読みました。

 

 

本書は自傷行為の研究をされている精神科医師が書かれた本で、専門書、教科書のような内容でした。私自身自傷行為をしたことはありませんし、周囲にもいないのですが、教育現場にいると、トイレで女子学生がリストカットしたとか、色々と話は耳に入ってきます。本書を読んで、自傷行為をする人は、生きるために自傷行為をしていたのだということが分かったのでご紹介します。

 

 

氷山の一角

 

自傷行為は世界共通で、平均開始年齢は11〜13才だそうです。女性に多いイメージですが、男女ともに見られ、中学生・高校生のおよそ1割にも上ります。しかし、学校が認識しているのは0.33~0.37%であり、氷山の一角にしか過ぎません。

難関私立中学・高校の生徒やホス狂と呼ばれる人々には自傷行為をする人が多いと聞きますが、飲酒や喫煙の経験者が多く、摂食障害傾向とも密接に関連していることが分かっているそうです。

 

 


本書では、自傷行為を以下のようなプロセスで説明しています。

  1. 絶望感
    自傷行為を繰り返す者は、身体的虐待や性的虐待、両親間の喧嘩といった家庭内での暴力場面に繰り返し暴露されている者が多いそうです。家や学校で繰り返し自分を否定される体験をすると「自分は要らない子」だと認識してしまいます。

  2. 最初の自傷行為
    「消えてしまいたい」という感覚は、消極的な自殺念慮になっていきます。「ここから飛び降りたら…」と空想を繰り返し、我慢の限界に達すると、最初は自殺の意図から自分を切ってしまいます。しかし、その傷は小さく、誰にも知られることはありません。

  3. 自分をコントロールするための自傷行為
    最初の自傷行為は失敗に終わりますが、それまで自分の胸を圧迫していた「心の痛み」が霧散しているのを発見します。「死にたいほどのつらさ」を消す方法を見つけ、「生きるために」(あるいは、死なないために)自傷を繰り返すようになります。

  4. 自傷行為の治療効果が減弱
    自傷行為の「鎮痛」効果には耐性が生じるため、徐々にその頻度を増やさなければ「鎮痛」効果を維持できなくなってきます。そのため他の部位を切ったり、壁に頭を打ちつけたり、タバコを皮膚に押し付けるなどするようになります。
    さらに、ストレス耐性も低下し、最初は「生きるか死ぬか」という苦痛に対して用いていたはずが、「友人の態度がそっけなかった」といった些細な不安・ストレスに対しても自傷しないではいられなくなってしまいます

  5. 他の手段(過量服薬など)への移行 or 重要他者による発見
    「切ってもつらいが切らなければ尚つらい」という状況になると、不快感情をリセットする方法として過量服薬のような自己破壊行動に移行するか、衝動をコントロールできなくなり周囲にこの秘密の儀式が露見してしまうという事態に陥ります。彼らが精神科医療機関やカウンセリング室を訪れるのはこの時期です。

  6. 周囲をコントロールするための自傷行為
    自傷行為は発見されることで自分の存在価値や重要他者との絆を確認し、間接的な「鎮痛」効果を得ます。自傷行為を繰り返すことで、家族や友人、恋人、援助者を一喜一憂させ、自分から離れていこうとする人との絆を一時的に回復させることができるためです。

  7. コントロールできなくなり絶望
    しかし、この「周囲をコントロールするための自傷行為」はあまり長くは続きません。周囲の人々が自傷行為に慣れ、冷淡な態度を取るようになっていきます。すると、自傷行為によって自分をコントロールすることも、周囲をコントロールすることもできなくなり、最初の「要らない子」という否定的な自己イメージが再び沸き起こります。

  8. 他の手段(過量服薬など)への移行 or 自殺企図
    自殺念慮が明確に意識されるようになると、過量服薬をするか、自己破壊的な手段を取り、致死性の高い手段・方法で自殺企図におよんでしまいます。10代の時に自傷行為を行った若者が10年後に自殺で死亡している確率は400~700倍にも高まるといった研究もあるそうです。

 

支援者別対応法

 

養護教諭

  • 声かけの第一声は、「よく来たね」
  • 自傷をやめなさい」と言わない。「そうやってつらい毎日を生き延びてきたんだね、本当に大変だったね」と伝える。
  • 「もう自傷しない」という約束には絶対に乗らない。「そんな約束はしないでいいよ。それよりも、もしも自傷してしまったときには、必ず報告に来て欲しい。できれば自傷したくなったときに、実際に自傷してしまう前に来てくれたらなおいい」ことを伝える。
  • 自分の感情を安心して表現できるようにする。どんな時に自傷行為が起きるのか分析し、置換スキルを身につけさせる
  • 親に言わないでと言われても、未成年なので伝える他ないが、必ず子どもに同意を得て親に説明する。(詳しい説明方法が知りたい方は本書を読んで!)
  • チームで対応する。

 

精神科医

  • ドリフターズ外来※を見直す。自傷患者は援助希求性が乏しいことを理解して、話をしっかり聴く。
  • 傷のケアをしないことも自傷行為であることを見逃さない。自殺企図は見逃さない。
  • 分離症状、解離性同一症(多重人格)への対応
  • 薬の処方は慎重に行う。

※「夜、眠れたか? 飯食ったか? 顔を洗ったか? 歯を磨いたか? また来週」といった短時間診療のこと

 

【救急医療機関

  • 自傷患者を恫喝したり説教したりしない。
  • 「放っておいてくれ」などと言って拒んだとしても、ひと呼吸置き、こみ上げてくる怒りを静め、「まあまあそう言わずに、だまされたと思って専門家に相談したらどうかな?」と、メンタルヘルスサービスを勧める。

 

 

まとめ

 

本書を読んで、自傷行為がどのようにして始まり、嗜癖化するのか、そのプロセスがよく分かりました。自傷行為は(状況にもよりますが)死にたくてしているのではなく、誰かの気を引きたくてしているのでもなく、「生きるためにしている」というのは目から鱗でした。一方、繰り返されるたびに少しずつ死に向かっていく依存症のような一面もあることが分かりました。自傷行為のアセスメントや対応法も詳しく書かれているので、養護教諭スクールカウンセラーの方にはぜひ一読をお勧めしたいです。

息子たちももうすぐ思春期で、開始年齢になる頃なので、心理的安全性の高い家庭づくりに努めて、話をしっかり聴く姿勢でいないとなと思いました。