今回は、「かぼちゃの馬車事件 スルガ銀行シェアハウス詐欺の舞台裏」(2022年)を読みました。
何か聞いたことがある程度で、全然知らなかったのですがこんな真っ黒な背景があったのかと驚きました。本書を読んで学んだことをまとめたいと思います。
本書を書かれているのは、被害者の会「SS被害同盟」のリーダーを務めた方です。最初は誰か他の人がリーダーをしてくれないかとすら考えていた、ごく普通の中間管理職をしていた50代の方なんですよね。
かぼちゃの馬車事件は不動産販売会社スマートライフ(後にスマートデイズに名称変更、以下SDと表記)の不動産投資話を居酒屋で持ちかけられたところから始まります。
- 女性専用シェアハウスかぼちゃの馬車
- オーナーが土地とシェアハウスを購入所有し、管理はSDが行う
- 30年間全室が埋まっている状態での月々の家賃収入を約束
- 人材派遣会社も兼ねており、家賃外収入として還元する
- 都内に数百棟あり、9割以上の部屋が埋まっている(HPより)
と言うことでしたが、蓋を開けてみると土地と建物合わせて2億円弱の価値は、実は1億3,000万円程度しかなく、中抜きが行われていたことが明らかになります。入居率9割というのも嘘で、実質は4割程度でした。
SDはわずか数年で経営破綻に陥ったため、賃料の支払いを滞納された不動産投資家(かぼちゃの馬車のオーナー)は、ローンの返済ができなくなりました。オーナー向け説明会ではSDの代表者は一切出て来ず、被害者救済を装いSDやスルガとも裏でつながっている怪しい人物もオーナー達に近づいてきます。
スルガ銀行はSDと結託して詐欺行為をしていたのですが、ローン審査を通過させるために、購入希望者の資産状況を改ざんし、スルガ銀行の上層部もこれを黙認していました。被害者の会の働きかけで第三者委員会が設立され、社員単独の犯行ではなく、経営陣の責任をも明らかにされましたが、当初は、銀行は豊富な資金と優秀な弁護士を使って、長期戦に持ち込んでくるので勝ち目はない、銀行とは争うなと泣き寝入り・自己破産を勧められています。
しかし、被害者メンバーとの出会い、河合弁護士のと出会い、マスコミを巻き込んでの活動が功を奏し、最終目標であった「すべての債務をゼロにして、シェアハウスを購入する前まで時間を巻き戻す」ことに成功しました。
一方、この件を受けてスルガ銀行側は岡野光喜会長兼CEO、米山明広社長ら3人の代表取締役を含む役員5名が退任、 金融庁より不動産投資向けの新規融資を6カ月間禁じる一部業務停止命令まで出され、株価は大幅に下落しました。
本書を読んで勉強になったのは、デモの効果についてです。私も沖縄に旅行した際、基地建設に反対して入口に1人で座り込んでいるデモの方を見ましたが、これで効果あるのかな?という印象でした。
しかし本件では、スルガ銀行の東京支店前でスタンディングデモを行ったり、スルガ銀行の会長である岡野宅前でテレビ局のカメラを従えたデモを行ったりと毎月デモを実行していました。目には見えませんが、国会で取り上げられてたりとボディーブローのようにじわじわと効いていきました。スルガ銀行と新生銀行の業務提携話が持ち上がると、同盟メンバーは即座に新生銀行本店前でもデモを行い(もちろん報道も呼んでいる)、提携見合わせに持ち込んでいます。
デモを止めてくれと言われるまで続けた同盟メンバーの尽力には頭が下がります。
オードリー・タンが「怒りは蛍光ペン」と言っていたように、怒りをデモという形で表し、様々な媒体を使って公表することは世の中を変えるのにとても有効なのだなと分かりました。
また、野次もただ一時の感情に任せたものではなく、綿密に計画されていました。SDオーナー向け説明会やスルガ銀行の株主総会など、誰がどの位置に座るかやどんな順番でどんな野次を飛ばすかなどLINEを使って綿密な計画を立てて臨んでいたのが印象的でした。
メンバー同士で役割分担をして、野次を飛ばす担当、野次の終了を合図する担当、新規メンバーを募る担当など組織だった動きで会議を紛糾させ、終わるとさっと退散。何なら直後に報道関係者向けの記者会見をする。
これを統括したリーダーはやっぱりすごいと思うし、適材適所で人員を配置し、かつ、冷静な判断とこのような統率だった動きがあっての勝利だったのではないかなと思いました。
私は不動産投資はしないなぁと思っていますが、「投資は自己責任」と言われる中で詐欺を明らかにして勝利を勝ち取ったかぼちゃの馬車事件は本当にすごいなと思います。過去記事「コーポレートガバナンス」でも感じましたが、間違っているものを正しい道に戻すのには、自分を信じて、仲間を信じて、茨の道を乗り越えていく他ありません。
こういった事例は本当に励まされますし、正義は勝つことを信じて最後まであきらめずに突き進んだ「SS被害同盟」の方々はかっこいいと思いました。