今回は、「欲しがる脳」(2025年)を読みました。
「ニューロマーケティング」という、脳分析を使ったマーケティングについて書かれている本で、人間の行動は、それを起こす前に脳が反応していること、無意識下で決まってしまっていることを分析・利用したマーケティング手法になります。面白いと思ったことをまとめたいと思います。
過去記事「意志はどこにあるのか?」でもあったように、人間に自由意志は存在しません。本書によると、行動の前に脳波に現れる「準備電位」というのは、明確な意思決定そのものを表しているのではなく、決定へと至る脳内プロセス全体の一部であると理解されるようになってきているそうですが。
スウェーデンの研究者らは、スーパーの買い物客180名に対してそれぞれ味の異なる2種類のジャム(または紅茶)を試食・試飲してもらい、どちらが好みかを選択させた上で、その後、自身が選んだ好みのジャムを改めて試食させ、その理由を説明してもらいました。すると、3分の2以上の買い物客が選んだジャムをすり替えたのに気付かず、自身が選ばなかったほうの味のサンプルについてもっともらしい理由を述べたそうです。これは、「選択盲」と呼ばれ、様々な分野で繰り返し実証されているそうです。
自分で選んだと思っただけで,理由は後付けなんですね。
では、ニューロマーケティングの研究から五感を活かした手法をまとめたいと思います。まず視覚ですが、こちらはWEBで活かせそうです。
視覚において、網膜から受け取る膨大な視覚データすべてを緻密に処理することはあまりに非効率的です。そこで網膜からの信号は脳内で10分の1以下に圧縮され、さらに前頭眼野の担うトップダウン処理によって「いまもっとも重要そうな信号」に選択的に注意資源を配分されているそうです。錯視などは、この作用によるものになります。では、何に注意が向くのかというと、①動くもの、②パターン変化、③色コントラストなのだそうです。

動くものは、生物を感じさせる予測不能で自律的な動きには注目してしまうということです。パターン変化は、「乱れ」による注意を引く陳列方法である、ジャンブル(投げ込み)陳列のイメージです。多数の類似したオブジェクトの中に1つだけ異なる特徴を持つ対象がある場合、その対象が瞬時に知覚される現象のことをポップアウト効果と呼ぶそうです。そして、コントラストはWEBデザインでは必ず学ぶ、濃淡を使った色の使い方になります。
私たちの脳は、単なる音よりも何か意味がありそうな人間の声のほうが反応しやすくできているそうです。音を使ったブランドイメージもよく使われており、CMソングなどもそれですね。

顧客に商品を手に取って触ってもらうと、その商品に対する心理的な「所有感」が高まり購入意欲や評価が上がるという現象を「エンダウメント効果」というそうです。手触りや質感にこだわった商品は、プレミアム感や品質感を想起させて脳の報酬系を活性化させ、購買意思決定を促進するのだそうです(ハプティック効果)。シートの座り心地も大事なようです。
匂いの種類によっては、人間の嗅覚は犬よりも良いそうです。ほとんど感じ取れないレベルのレモンの匂いを漂わせたところ、初対面の人に対する好感度が無意識に高まったという研究もあり、心地よい香りにはリラックス効果があること、顧客の評価や売上にも影響があることがわかっています。
嗅覚というのは、五感で唯一、大脳皮質にダイレクトにつながる経路を持つため、潜在的な行動変化や態度変容を促すことができそうです。
「おいしい/おいしくない」は舌からの信号だけではなく、脳内での主観的な過去の記憶や感情ネットワークと統合されて初めて生じるものだそうです。そのため、コカ・コーラとペプシのラベルを隠して行った実験では、単なる味覚からの評価を上回って「記憶に蓄積されたポジティブなイメージ」に基づいて飲料が評価されているという結果も出ています。
母親の味など、味覚は思い出と絡まっているんですね。
プロスペクト理論では、人間は利益よりも損失に対して強く反応し、同じ価値であれば得る喜びよりも失う痛みの方がおよそ2倍大きいと言われています。このような損失の恐れのことを、FoMO(Fear of Missing Out)と言い、FoMO状態になると、恐怖や痛みに関連した脳活動が高まり、前頭前野の働きが抑制されて冷静な判断が難しくなるのだそうです。さらに、高FoMO群は、SNS利用率も有意に高かったという研究もあり、衝動的な行動と関連がありそうです。

私も先日、いつも行列のできているドーナツ屋さんに並んでしまいましたが、これは、バンドワゴン効果というそうです。案の定、値段に対して美味しくもなく、これも経験ですね(笑)。
本書は、ニューロマーケティングについて学べる一方、目先の報酬に注意を奪われ続ける、ドーパミンゾンビ化について啓発している本でもあります。確かに、SNSを見ていたら、いつの間にか時間を無駄に消費していたなんてことがありますよね。いかに無意識のうちにヒトの注意を惹きつけ、消費させるのかという研究が脳の分析によって行われ、活用されているのかというのがよく分かりました。そして、FoMO状態にならないよう、または、気づいて衝動買いを回避できるよう、前頭前野を鍛えようと思いました。
