今回は、「知られざる海上保安庁ー安全保障最前線ー」(2024年)を読みました。
著者さんは海上保安庁の長官をされていた方です。海上保安庁がどんな組織で何をしているのかを世論やバッシングに答える形で詳しく説明しており、すごく勉強になりました。主に中国との領有権を巡る攻防も興味深かったので、まとめたいと思います。
海上保安庁とは、 日本の国土交通省の外局で、海の警察や消防のような役割を担う行政機関です。具体的には、 海上犯罪の取締り(麻薬や拳銃の密輸、密航、密漁など)、海難救助・災害対応(人命救助や消火活動、支援物資の輸送)、航海の安全確保、海洋環境保全、海洋調査ということですが、海上自衛隊とは異なる、非軍事組織であることが庁法25条に明記されています。
そして、本書は、非軍事組織である意味と意義について一貫して説明している本になります。
外国のコーストガード(沿岸警備隊)は一般的に軍事機関かそれに準ずる組織だ。しかし、日本の海上保安庁は非軍事の警察機関(法執行機関)だ。これは世界標準から見るとガラパゴス化している。
なんて言われるそうですが、むしろ、世界の最先端であり、世界中の国々からかなりの信頼を得ているということを具体的に説明しています。
近年、アジア諸国において海上保安機関の設立が相次ぎ、それに伴って海上保安庁に対する技術指導等の要請、すなわちキャパシティ・ビルディング(能力向上支援)の要請が非常に多くなっているそうです。 海上保安庁では2017年に能力向上支援の専従部門「モバイルコーポレーションチーム(MCT)」を発足し、2023年11月1日までの期間で18カ国に95回派遣し、8カ国1機関に22回のオンライン研修を実施したそうです。合同訓練をしたアメリカの沿岸警備隊「サファイア」からも「クレイジー」と言われるほど、海上保安庁の操船技術は高いということでした。

また、アジア各国の海上保安機関の若手幹部候補職員を日本に招聘し、海上保安政策に関する修士レベルの教育を実施する「海上保安政策プログラム(MSP:Maritime Safety and Security Policy Program)」という取り組みも2015年から行っています。アジア各国のコーストガードのトップクラスが同級生となるのも近いそうですよ。
それもこれも、中国が海洋進出し、アジア各国で問題を起こしているのが背景としてあります。先述したように、アジア諸国が非軍事の海上保安機関を設立するなか、中国は海警を中央軍事委員会所属の組織に転属させ、トップも軍人に入れ替えています。海軍の退役軍艦を転用するなどして海警船を大型化し、武装化も進めているそうです。

本書では、具体的に尖閣問題で中国海警局とやりあっている内容について説明していますが、まず、一度も日本が海警に負けたことはありません。というのも、海上保安庁の敗北は紛争の勃発を意味するからです。
では、どのようにやりあうのかというと、ほぼ毎日接続水域に入ってくる海警船に対し、冷静かつ毅然と対処しているそうです。日本漁船や調査船を海上保安庁の巡視船がしっかりガードし、海警船にはマンツーマン+αで対応します。海警側が無線で「貴船は我が国の領海に侵入した。直ちに退去せよ」と警告しても、「尖閣諸島は日本の領土であり、ここは日本の領海である。貴船の主張は受け入れられない」と言い返し、絶対に日本側の主張で閉めるのだそうです。これは、反論しない形で終わってしまうと、後に中国が何を言ってくるかわからないからだということでした。
日本の海上保安庁は少ない人員、予算の中で毎日日本の海を守っているのだということが良くわかりました。そして、非軍事機関として世界中の国から信頼されており、軍事化することは、かえって近隣諸国との緊張状態を生み出してしまうということも、大変よく理解できました。
日本は海に囲まれた島国ですし、領有で他国ともめている島もいくつもあります。日本が今戦争をしなくて済んでいるのは、海上保安庁が政治レベルの緊張・対立を超えて他国と連携・協力しているからであって、有事の際には、自衛隊、特に海上自衛隊と綿密な連携ができるということも頼もしい限りでした。
内陸に住む私は、海上保安庁の人と出会う機会はほぼありませんので、ここで「いつもありがとうございます。これからも頑張ってください」とお伝えしておきます^^
