今回は、「ビジュアル・シンカーの脳 「絵」で考える人々の世界」(2023年)を読みました。
ビジュアルシンカー(視覚思考)の人がいて、自閉症スペクトラムと関連があり、見えるもの、得意なものが違うというのを学んだのでまとめたいと思います。
世の中には、言語思考タイプと視覚思考タイプがいて、その程度は人それぞれ、スペクトラムに分布します。小学4〜6年生の750人を対象に行なった調査ではほぼ1/3が明確な視覚(空間型)思考タイプで、およそ1/4が明確な言語思考タイプ、残りの半分弱が混合タイプだったそうです。
視覚思考タイプの端っこでは小さい頃に言葉が出なかったなど、自閉症スペクトラムと診断されるような特徴が見られるようです。また、学校での授業やペーパー試験は視覚思考タイプには向かない学習方法であり、学校での成績が著しく悪いのも特徴です。
エジソンも成績はクラスの最下位で小学校を退学しています。また、映画監督のスティーヴン・スピルバーグは、ディスレクシア(知的能力や理解能力などには特に異常がないのに、文字の読み書きに著しい困難を抱える障害)と診断されたが、視覚思考者でもあると著者さんは見ているそうです。
視覚思考タイプには2つの異なる特徴があり、全く得意分野が異なります。
物体思考タイプ
本書の著者さんもこのタイプだそうで、設計者に多いタイプです。物事を物体として認識し鮮明にイメージが浮かぶため、四則演算(+,-,×,÷)まではできますが、代数(x,y)など物体としてイメージできないもの、抽象概念が入ってくると、全く分からなくなります。
一方、図面を見ただけで、まるで目の前にあるかのように見えます。なので、東日本大震災の福島原発事故や航空機の事故でも、図面を見るだけでそこで何が起きたのか、どこで問題が発生したのかありありと見えるのだそうです。すごい能力だと思います。
物体視覚思考者は、写真のように正確なイメージでまわりの世界を見るため、グラフィック・デザイナーや画家、目端のきく商売人、建築家、発明家、機械工学士、設計士などが向いています。そして、歯科衛生士も向いているかも知れません。ポケット値を見て、歯根面、縁下歯石の付着の状況をイメージする力が必要だからです。
空間思考タイプ
一方、空間思考タイプは絵ではなく、パターンや抽象的な概念で考えます。なので、抽象概念が含まれる数学が得意だそうです。音楽も得意で、統計学者、科学者、電気技師、物理学者などにも向いています。コンピュータープログラマーに空間視覚思考者が多いのは、コードにパターンが見えるからだということでした。
言語思考タイプ
ついでに言語思考タイプも書いておくと、言葉で考え、物事を順序立てて理解します。小さいときからよくしゃべり、学校では成績がいいのも特徴です。一般的な概念を理解するのが得意で、時間の感覚に優れていますが、方向感覚は必ずしもいいとは言えません。教師、弁護士、著述家、政治家、企業の管理職などが向いています。もちろん、歯科衛生士にも必要な能力です。歯科保健指導では言葉で説明することが必須で、相手に響く言葉選びができること、そして、共感性が何よりも大事だからです。
言語思考者は宗教やメディア、出版、教育で世論を支配しているということでした。
本書には、チェックリストもありましたので、気になる方はチェックしてみるといいと思います。まぁ、なんとなく自分で分かりますけどね。
学校での勉強はたいてい連続していて、体系化されているため、言語思考者には分かりやすい一方で、視覚思考者は理解しにくいというのは、上記の通りです。特にスペクトラムの端の方ではこれが顕著であり、近年は「自閉症スペクトラム」という診断が付くことで、余計に可能性が失われていると著者さんは危惧します。
「テストでいい点を取ること」に関係しないとされる、社会見学や技術家庭科のような実践的な授業が減らされ、ますます視覚思考者に有利な世の中になっていると警告していました。
本書を読んで考えたのは、苦手を克服すべきなのか、得意を伸ばすべきなのかということです。言葉の遅かった著者さんも、特別な教育を受けて言語思考を訓練し、本書のような本まで書いている訳です。言葉の学習は苦手だからしないというのは違うのではないかなと思いました。
また、逆に、言語思考者が図面を読めないのかと言うとそうではありませんよね。就職してできるようになったなど、訓練により学べる部分も大いにあると思います。
一方、向き不向きも確実にあり、できないことを無理やりさせるのも違うのではないかなと思います。その境界線を誰が決めるのか…そこが一番難しいなと思いました。本人?親?教師?上司?失敗しながら試行錯誤するしかないのでしょうね。初めから無理だとは決めつけないようにしたいです。
本書を読んで、成績の良い子ほど就職後に伸びないという理由がよく分かった気がします。そして、うちの息子もレゴやガンプラが大好きで、言語化が苦手、学校の勉強も苦手と、物体思考タイプの特徴があるということも分かりました。
過去記事「エラー・ゼロは実現できる」の本の中でも書かれていたように、やはり、見え方の違う様々なタイプの人と協働することで、事故の可能性を予見し未然に防いだり、新しい解決策が見つかるよねということも再認識しました。
世の中の、誰にでも同じ仕事を求めたり、常識を求める上司には、本書を読んで仕事の振り分け方、人には適材適所があるということについてもう一度考えて欲しいなと思います。