今回は、「時をかけるゆとり」(2014年)を読みました。
「桐島、部活やめるってよ」で第22回小説すばる新人賞を受賞し、「何者」で第148回直木賞を受賞した著者さんの短編エッセイが収録されている本で、めちゃくちゃ面白かったです。センスというか、文才をビシビシ感じたので、感想を書きたいと思います。
この中でも特に面白かったのが、地獄の100キロハイクです。
100キロハイクとは【二日間かけて埼玉県本庄市から早稲田大学まで歩き通す】というドM行事である(ちなみに実際の距離は一二五キロだ)。しかも、全員仮装をすることが必須条件であるため、世界一長い仮装行列、とも呼ばれているという。
こんな行事があるんですね。それ自体も興味深かったし、「人生で最大の過酷さ」を経験したい人が毎年千人以上応募し、しかも抽選なのだそうです。さらに、その持ち物表がすごい!
最高にフィットするウォーキングシューズ、ウエストポーチ、五本指ソックスを十足程度、大量の湿布、マメをつぶすための安全ピン、潰したマメに塗る消毒液、テーピング、絆創膏、コールドスプレー、レインコート、寝袋、筋肉痛に効くと噂のバファリン、ナロンエースを大量に、さらに真夜中に山道を歩くための懐中電灯、そして仮装の衣装等々…
明かにヤバいハイクだというのが上記の持ち物表だけでも分かると思います。

著者さんは、バスローブ姿にワイングラスでこの行事に参加し、読みながら(大変辛い経験が詳細に書いてあるのですが)ニヤニヤが止まりませんでした。もし、電車など他の人がいる環境で読まれる方は注意が必要かも知れません。
この100キロハイクの他にも、京都まで自転車で行く話など、若いからこそできるような体験が本当に面白く書かれていて、とても楽しく読ませていただきました。
こちら、初出のタイトルは「ルーレットの目」で、直木賞受賞者は原稿用紙二十枚の自伝的エッセイを書くのが慣例なのだそうです。ルーレットというのは、人生ゲームのルーレットのことで、小学生の頃夢中だった人生ゲームを一人でするというエピソードが出てきます。私自身も一人っ子なのでやったことがありますが、全然面白くないです…

また、小学4年生の頃から毎日日記1ページを書くようになり、三年後には読書感想文で賞をもらったそうです。私も息子たちも夏休みの1行日記すら最終日に過去の予定表を見ながら書くような人間(笑)なので、日記を毎日1ページも書くなんて想像もできません。小学生の頃、担任の先生がある女の子の一行日記が素晴らしいとクラスのみんなに披露したことがありましたが、今はあの子も小説家になっているのかも知れませんね。
過去記事「センスの磨きかた」であった、ディテール(観察を言語化する)訓練がこの日記にあったのだなと思いました。
著者さん、尻に問題を抱えていて、ちょくちょく出てきます。実は本書のいちばん最初のエッセイも「便意に司られる」という尻ネタです。肛門科を受診したものの、歩くのもままならないくらいに痛くなっていた著者さんは、
当時は本気で、「今ひったくりに遭っても、お尻の安全を優先せざるを得ないため、犯人を追いかけられない」と思い悩み、少額の現金を持ち歩く生活をしていた。バカである。
だそうです。本当に思い悩んだのかは知りませんが、こういう表現がエッセイ全般を通して、面白いなと思いました。
本書は決して大きくない日常が詳細に、面白いツッコミを自分自身に入れながら文章が進んでいきます。こういう文章を書けるということがセンスなんだな~と改めて思いながら読みました。また、著者さん本人の視点で書かれていて、登場人物の少ないこのようなエッセイは私には大変読みやすいと改めて思いました。
ぜひ、直木賞を受賞した「何者」や他の本も読みたいと思いましたが、Unlimitedではないのが残念でなりません(当然か…)。


