今回は、「NHK出版 学びのきほん しあわせの哲学」(2021年)を読みました。
本書は、タイトルの通り幸せについて哲学する本なのですが、それよりも、随所に出てくる人間と動物との違いが興味深かったので、整理したいと思います。
松沢哲郎氏の『心の進化を語ろう 比較認知科学からの人間探究』には、以下のようなエピソードが載っているそうです。
いたずら好きの青年チンパンジーのレオは、あるとき脊髄を損傷し、首から下が麻痺して動かなくなってしまいました。(中略)首から上は動くので、世話をしてくれるスタッフの不意をついてバッと歯をむいたり、口に含んだ水を噴き出して驚かせては、笑って喜んでいたそうです。

人間なら人生に絶望するところですが、チンパンジーは今を生きているので、「いま・ここ」で苦痛がないかぎり、まわりの人があれこれかまってくれることを「うれしい」と感じ、同時に「驚かせてやろう」といういたずら心も出てくるのだそうです。
人は言葉を獲得したことで、他者に複雑なことを伝えることができるようになりました。言葉を使うことで、想像の世界をつくりだし、過去や未来のような、「いま・ここ」にないものまでつくりだすことができます。これらは、言葉をもたない生き物にはできないことです。
私たちは、「これまでこうやって生きてきて、そのなかでいろんなことを感じて、現在に至っている。そして、これからはこんなことをしていきたい」という自分の人生の物語を、言葉によってつくっています。

ライオンは満腹だと何もしないで寝ています。ところが、人はお腹いっぱいになると何かを「したい」と思うのだそうです。著者さんは、「愛情的承認」「評価的承認」「存在の承認」を得て、自由の感覚を発揮しながら生きたい、自分で自分の人生をコントロールしているという感覚を得たいのだと説明します。マズローの欲求段階説でも自己実現の欲求が最上位でしたね。
人間というのは、自己価値を認めてもらうために命をかけることもある生き物です。動物は名誉のために死ぬことはありませんよね。
では、人はどうやって自己価値を認めてもらおうとする(評価的承認を得る)のかと言うと、「競争関係における承認」と「役割関係における承認」の2つがあります。大人になるにつれ、スポーツや受験など「競争関係における承認」から、社会で必要とされる役割を果たす「役割関係における承認」へと軸足を移していくことでした。
人生を対象に「幸福」を感じるのも人間だけです。そして、この「幸福感」が「幸福だという認知」に繋がります。感謝の言葉に涙を流したり、美しい風景を見て「こんな至福の時を持てるなんて、私の人生は恵まれているなあ、なんて幸福な人生なんだ」と思うのは人間だけということです。

そして、人生における嫌なことも喜びも、ニーチェの言う「永遠回帰」思想では必然的にすべてつながっている。そう考えると、自分の人生の物語の中にある幸福をたくさん見つけられそうですね。人間万事塞翁が馬ですね。
人間は、言葉を得ることで自分の人生の物語を作っている、他人からの承認を得ることで幸福を感じるというのが印象に残りました。本書を読んで、私は他の人の人生の物語を聞いて、承認できる人になりたいと思いました。他の人を幸福にする方法というのはその人の望みを叶えることではなく、その人の人生を承認することなのだと分かった気がします。

